Unhistory Channel 152 - パラドゲー記録

Paradox Interactive, Crusaderkings3, AAR

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 ヴァルケン・クルーガー:ソードランド共和国軍参謀総長。君主制期からの軍人。内戦ではターキン・ソルのもとで戦った。ザハレンの戦いで反乱軍を撃破し、白星勲章を得た。

「ランセア国防相! どういうつもりなのか説明していただけますかな」
 クルーガー元帥は激怒している。
 それもそのはず、イオセフ・ランセアはクルーガー元帥をわざと外して私との会合をセッティングし、その席で兵役制の撤廃を進言したのだ。
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 私は制服組の意見を取り入れるべきだと思ったので、そう言った。そこへクルーガー元帥が怒りに燃えて現れたのだ。ランセア国防相がこんな小細工を弄するとは失望した。彼はいったいなにをたくらんでいるのか? 注意深く観察しておかねばならない。

「兵役制は継続する。ランバーグ王国の脅威がある現状では、軍の質よりも軍の量を重視せねばならない。いいね?」
 そう言いおくと、部屋を出た。次の会合が7分後に迫っている。大統領がこんなに忙しいと知っていたら、私は政治家を目指さなかっただろう。
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 予算-2だったのがいつのまにか0に
 毎ターン+2されるのか?

「アルカシアからの援助がかなり効いています」
 宮殿の会議室で、経済相サイモン・ホルがそう言った。
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「だが、不満もある」と実業連盟のミカイル・アヴェンが言った。
「アグノリアとの通商は増えたが、鉄鉱石を高く買っているため収支は改善していない。それに高速道路H-3プロジェクトの工事遅滞が経済に悪影響を及ぼしている。大統領閣下、あなたの選んだプロジェクトですよ?」

 黙れ。この丁稚野郎が。
 後からならなんとでも言える。

 私は感情を抑えて言った。
「経済の先行きについて、国民のあいだに悲観的なムードがあるのは事実だな」
 ホルはうなずいた。
「はい、閣下。我々は不況を脱出するためにさらなる投資が必要だと考えます。インフラ整備か、あるいは産業支援か」
「案を聞きたい」
 ホルは書類を広げた。
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 1:ベンフィ空港。もっとも大きなリターンが見込める
 2:モルナ港。首都からの輸出がより迅速に行える
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 3:コンリアト工業団地。ラクハーヴェンをしのぐ工業都市を形成する
 4:サルナ農業公社。最貧地方ベルジアの経済に対する起爆剤となる

 サルナはよく知っている。
 飯のうまい、いいところだ。あの辺一帯は豊かな穀倉地帯だ。

 知っての通り私はベルジア出身だ。だからサルナに投資するのが筋というものだろう。だが、いまベルジア地方はブルド自由戦線とフェリックス・ブロン総督による暴力の応酬が荒れ狂っている。政治的リスクが高すぎる。

『国土の均衡ある発展』はどうしたって?
 リスクには勝てない。そのかわり、モルナはどうか? モルナの位置するロレン地方はかつて炭鉱で栄えた。いまはラストベルトと呼ばれる低成長地帯だ。ここに投資すれば、ロレン地方の経済を活性化させるのと同時に首都のインフラ不足にも対応できる。

 結論:私はモルナ港の整備を選択した。
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 問題山積のベルジア地方

 ベルジア情勢について会合があった。
 私の故郷、ベルジア。当地には特別区令が敷かれていて、内務省の支配が及ばない半独立地域となっている。ここをフェリックス・ブロン総督が統治している。総督はブルド自由戦線BFFと激しい暴力の応酬をくりひろげ、爆破テロや密輸兵器の摘発など成果も上げている。

 しかし最近のブルド人強制移住令などはあきらかにやりすぎだ。憲法から逸脱しているのではないか?
 そう思っているのは現地民も同じで、デイルのブルド人弁護士イシュヴァル・エルセンが総督の政策を違憲であると告発している。

 しかしエルセンは何度も銃撃を受けている。
 特別区警察隊はエルセンに訴訟から手を引くよう何度も『警告』している。
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 法相ニア・モルグナによれば、ブロン総督には最高裁主席判事オルソ・ホーカーの支持があると言われている。だが最高裁に圧力をかけ、憲法にのっとってブロン総督を排除することは難しい。
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 内相リレアス・グラフは政府が司法に介入すべきではないという。それより事実上の政府の権力が及ばない地帯と化しているベルジアの地位を再考すべきだと考えているようだ。

 このような状況下で立法者の意識も変わってきている。今がチャンスかもしれない。ターキン・ソルの作ったベルジア特別区令を廃止し、他のソードランドの地方と同じ扱いにすべきだろう。
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 フレンス・リクター:野党PFJP党首。経済学を学んだのち、アルカシアの人権団体に勤務。アルカシアからの機械輸入を行い、タウルスグループに商業的に貢献した。ターキン・ソルの強硬な反対者。アルフォンソにも冷淡だったが、民営化には賛成していた。

 改憲案について、PFJP党首のフレンス・リクターと話した。
 彼はまだ渋っている。大統領布告についても、閣僚の任命についても、選挙資金法についても不満があるようだ。
「では、ターキン・ソルの憲法のほうがいいというのか?」と私は言った。「小さくても一歩は一歩だろう」

「そうだな、改憲案を通す方向で考えよう」
 リクターの言葉に私は胸をなでおろした。
「だが」
「だが?」
「アントン、君は与党USPをまとめきれているのか?」
「もちろんだ」
「君は改憲案を最小限の修正に抑えただけでなく、これまでPFJPが取り組んできた改憲への道筋に対する注目を奪ってしまった。そのことに私は腹を立てているんだ」

 まあ、まさにそれが私の目的だったわけだが。
 見透かされていたか。

「『代価』が必要だ」
 リクターの言葉には含みがあった。
 代価? どんな代価だ?
 深入りしないほうがいいだろう。

「私が君に提供できる代価は民主主義だけだよ」
 その言葉を口にしたとたん、リクターの目の色が変わった。
「よりによって君が民主主義を口にするのか?!
 ……君は信用できない。任期の最初から選挙資金法で選挙をハイジャックしてきたようなものだ」
「選挙資金法を通したのは議会だ」
「だが拒否権があっただろう! もういい。君の返答で私の意志は決まった。アントン、PFJPは君には協力しない」
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 『代価』とやらを用意しなかっただけでこの変わりようだ。
 個人的に100万レンでも渡せばいいのか?
 だが私は絶対に汚職には手を染めない。これまでの政治家人生でいろいろな汚職を見てきた。それはかならず高い買い物になる。

 では、フレンス・リクターに閣内での席を提供するか?
 アルカシアとつながりが深いことは利点だが、彼はターキン・ソルの政策の強硬な反対者で、民営化論者だ。この大連立は政権運営上のリスクが大きすぎるし、私はそこまで改憲にベットできない。しかし、この機会を逃せばもうあとはないだろう。これまでの努力がすべて水の泡になるのだ。

 私は答えた。
「取引はしない。『代価』はない」

 交渉は決裂した。
 私は自分の手が震えているのを感じた。取り返しのつかないことをしてしまったという感覚があった。改憲案は潰れた。だがそれはPFJPの反対で潰れたのだ。そのことはまもなく全国民が知ることになるだろう。
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 内国調査部 予備調査報告:
『オリガルヒのウォルター・トゥスク、マルセル・コロンティともに、いかなる違法行為の証拠も見つからず』
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 今年も内戦終結記念日がやってきた。
 私は幾人かの閣僚たちとともにジェン市に招待されていた。

 ジェンは美しい街だ。
 ここは内戦で被害をあまり受けなかったので、しっとりとした古い街並みがよく残っている。その街角にはソードランド国旗や国民戦線のポスターが多く見られる。ここは強力なナショナリストの拠点で、かつてはUSPのターキン・ソルへの強力な支持があった。しかし近年その支持は国民戦線に移行している。
 
 市庁に到着すると重厚な内装の会議室に通された。
 そこには国民戦線のケサロ・キベナーとレムス・ホルストロンがいた。そして意外なことに、PFJPのフレンス・リクターとマノリー・スヘイルがいた。議会外で彼らが一緒にいるのは珍しい。

  国民戦線が我々を招いたのはベルジア地方の情勢について話すためだった。
 キベナーは言った。
「ブルド自由戦線BFFは祖国に対する脅威だ。彼らは分離主義の傾向を強めている。日々、ベルジアからのニュースが届く。聖職者たちがBFFのために兵士をリクルートし、訓練している」
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「問題は、イシュヴァル・エルセン対フェリックス・ブロン総督の件だ。もし最高裁が総督側に有利な判決を出せば、BFFはベルジア全土で蜂起するだろう。国が割れる。これだけは回避しなくてはならない。その認識だけは共有しておきたい」

 キベナーは続けた。
「大統領閣下。以前、改憲案について話した際に、私はそれに反対した。しかしいま、この状況になってわかった。祖国をまとめているのはソリズムだったのだ。ターキン・ソルの残したものを守らなければ。我々は結束しなくてはならない。国民戦線はそのための助力を申し出る」

 これは驚きだ。
 というのも、国民戦線は民族としてのソード人、ソード文化を第一に置いていて、ターキン・ソルが考えていたような『ソードランドに住む者はみな平等』という理念に反発したところから党が始まっていたからだ。彼らもまた祖国のことを真剣に考えているのだ、と私は思った。

 レムス・ホルストロンが何かつぶやいた。
 自分は同意できないとか、なにかそんなことだろう。
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 私は聞いた。
「PFJPはどう考えているのか?」
 フレンス・リクターは答えた。
「保留つきだが、同意する。3党がまとまってイシュヴァル・エルセンを支持し、最高裁に圧力をかけるんだ」

 では具体的にどうするか?
 キベナーいわく、イシュヴァル・エルセンを擁護する共同声明を出す。『最高裁が憲法に従い、ソリズムの統合にならう結果を望んでいる』と。
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「憲法第6条には『民族や文化にかかわらず、すべての市民はソード人である』とあり、第7条には『すべてのソード人は法の前に平等である』とある。

 6条を厳密に解釈すればエルセンや他のブルド人はみなソード人とみなされる。彼らはソード人としての完全な権利を有するはずだ。したがってブロン総督がデイルで行ったようなブルド人強制移住令は違憲ということになる。

 この線で押す。
 我々はブロン総督を排除し、ベルジアの沈静化につなげられる」
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 マノリー・スヘイル:PFJP副党首。アルフォンソの批判者として出現。自由市場改革に反対し、フレンス・リクターに対して反発した。ターキン・ソルの政策にも反対。アグノ=ソード人とブルド人に対して支援を行う。PFJP左派に強い影響力。

 PFJPのマノリー・スヘイルが口をひらいた。
「私はもう一歩踏み込むべきだと考えている。ブルド人の存在を憲法で明記すべきだ。現行憲法6条には欠陥がある。ブルド人をソード人として扱うことは差別にあたると考える。この憲法の欠陥をこの機会に修正しましょう」

「ミスター・リクター?」
「個人的にはキベナー氏の案に同意するが、党としてはスヘイル氏の言う通り、第6条は非ソード人に対する差別と考えている。我々はイシュヴァル・エルセンを助けるためにここへ来てはいるが、現行憲法にレイシズムが含まれていることを認めないわけにはいかない」

「スヘイル氏の案には国民戦線は同意できない」とキベナーが断言した。
 なるほど、PFJPと国民戦線は第6条について対立しているというわけだ。

 私は頭の中を整理した。

 国民戦線のスタンスは改憲投票前に行う行動としてはリスキーだ。
 だがPFJPが妥協して声明に協力するという利点がある。それに『憲法第6条、第7条に準拠した判決を出すよう最高裁に納得させる』というのはエレガントだ。最高裁は自分の銃で撃たれるようなものだ。

 一方、PFJPのスタンスはさらにラディカルだ。
 これは最高裁を敵に回すだけだろう。それに国民戦線は同調しない。『第6条を修正するよう最高裁に圧力をかける』というのは荷が勝ちすぎる気がする。そして重要なのは、これが通ればPFJPが一番得をするだろうという点だ。

 キベナーは言った。
「大統領の判断を仰ごうではないか」
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 私の結論はすでに出ていた。
「国民戦線の案に同調して3党の共同声明を出す。イシュヴァル・エルセンを助け、BFFの蜂起を未然に防ぐんだ」

 キベナーとリクター、副大統領ペトルが拍手した。
 レムス・ホルストロンとマノリー・スヘイルは一拍おくれて拍手に加わった。

 私の改憲案は失敗に終わることが運命づけられている。
 しかし今日、ここで、少なくとも3党でなんらかの合意に達することができてよかった。そう私は思った。

 みなそれぞれの場所で祖国のことを考えていたのだ。
 嬉しいことだ。その事実が私を強くしてくれる。

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 夕暮れのデイル
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 宗教調和法への大統領拒否権発動を報じるラディカル紙

 宗教調和法が議会を通過した。
 内容を見て苦い顔になった。
『デイルでの降誕日の説教をソード語に限る』
『特別な許可なければブルド語を説教の言語として禁じる』
『聖職者をソード系に限る』

 私はヌール教の聖地であり聖ダストの墓所であるデイルの出身だ。この町には朝から晩までさまざまな言語が飛び交っている。それが当たり前だと思って育ってきた。ソード人が多数を占める他地域の人々には、この法案の意味がわからないのか?

 ブルド人聖職者が過激派の温床になっているという話は聞いていた。だが、原則を曲げてはいけない。祖国を分断してはならない。私は拒否権を発動し、この法案を葬り去った。
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 アルカシア条約機構は強力な軍事同盟だ

 外交面での進展が3つあった。
 まず最初はアルカシアのドワイト・ウォーカー大統領からの提案だ。エルロリー市の空軍基地にアルカシア空軍のアクセスを認めてほしい。ついては補給も行いたいという。代償は多額の経済援助だ。
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 アルカシアとの協調を目指してきた外交努力がようやく実った。答えはもちろんイエスだ。これでランバーグ王国はソードランドの国境を侵す前に、一度は立ち止まって考えることになるだろう。
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 予算+2
 これで資金は-3から-1に回復

 協定の締結と同時にアルカシアからの投資の話が相次いでやってきた。経済援助のインパクトは大きく、さきの法人減税とあいまって、GDP成長率はついにプラスに転じた。外交、経済、軍事、すべての面において朗報だ。
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 もうひとつはアグノリアとの同盟で、通商条約の改正も行なった。アグノリアの農産物を優先的に買いつけ、鉄鉱石を高値で買うかわりに、アグノリアからの投資を呼び込む。
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 最後はウェーレンとの協約だ。
 ブルド人問題について、ウェーレンとソードランドからブルド自由戦線BFFを挟撃しようという提案を受けたが、これは拒否した。

 スモラク大統領は私に言った。
「ブルド人を2つにわけて考えるというのはどうだ? 国民としての義務を果たす善きブルド人と、悪しきBFFにだ」
 だがBFFの弾圧はベルジア地方にさらなる炎をもたらすことになる。私はBFFの掃討作戦には参加せず、そのかわりにテロリストの越境を防ぐためウェーレン国境を閉ざすという選択肢を選んだ。スモラクは私と握手した。
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 週末、エルロリー市のペトル・ヴェクターンの別荘に呼ばれた。

 別荘?
 いや、それは豪華な宮殿だった。きらびやかなシャンデリア、レスピア産キャビアにアルカシアの音楽、けばけばしいウェイトレスたち。そしてここに男たちの妻は1人もいない。いささか放埒すぎないか、我が友ペトル?

 そこで農業・地方相ガス・マンガーに会った。このような催しで会うには似つかわしくない陰気な男だ。

 私たちは古都エルロリーの夜景を見ながら話した。
「それで? アーマダイン社の株が2倍になったそうですが」
「君の勧めてくれた株だ。高値の時点で利確したよ」
「大統領閣下、いまやあなたはそれなりの資産家というわけだ。実はこの別荘をペトルに売ったのは私なんです。あなたにも物件を紹介しましょうか?」
「豪邸に興味はないよ」
「では投資として考えてみませんか? エルロリー市郊外のワイナリーつきの屋敷はどうです。あるいは、FCアンリカのオーナーシップに興味はありませんか?」
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 FCアンリカか。興味がないといえば嘘になる。だが、大統領が所有しているサッカーチームというのはあまり健全でないように思える。

 それにくらべると、ワイナリーのほうはかなり心を動かされた。貧しい農夫の息子として、立派なワイナリーと葡萄園の所有者となることには大きな意味がある。

 しかし、自分の仕事は資産を増やすことではないと思い至った。
「やめておこう」
「そうですか。その気になればいつでも」
 部屋の中へ戻るとき、暗がりで誰か2人がキスをしているのが見えた。
 そのあと現れたペトルのシャツのカラーには、赤い口紅がべっとりとついていた。
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 シルカス議員の死から始まった国内騒乱がようやくおさまる
 治安に注力したおかげだ
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 ルシアン・ガラーデ:官房長。法学徒。選挙戦で功績あり。経歴に謎のギャップがある。

 このころ、大統領直属の情報機関『内国調査部』を設立した。
 官房長のルシアン・ガラーデがこの新組織の指揮を取る。

 主席判事オルソ・ホーカーをはじめとする保守派のオールドガードに標的を定めるか。あるいはウォルター・トゥスクなどのオリガルヒについて捜査を進めるか。
「あなたの敵は誰か、ということです」
 ガラーデが私の顔を見て言った。

 そういうことなら、私の敵はオリガルヒだ。
 彼らは国民の富を吸い続け、そのもたらす腐敗は祖国をむしばんできた。私がそう答えると、ガラーデはうなずき「では、閣下の望むままに」と言った。彼は謎めいた男だが、頼りにはなる。
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 ケサロ・キベナー:国民戦線NFP党首。プロパガンダアーティストを志していた。軍出身。ウェーレン内戦では難民受け入れに反対。アグノ=ソード人やブルド人に対する街頭暴力に重要な役割を果たしたとみられる。ジェン市長を経験。1949年暗殺事件に遭遇、犯人をブルド人分離勢力だと名指しした。

「レイン大統領! あなたは祖国をあやまちの沼に沈めようとしている!」
 ケサロ・キベナーが絶叫した。

 議会で改憲案についてスピーチしたが、与党USPの一部と国民戦線がざわついている。民主主義についてではなく、あくまで国民の統合を念頭に置いてやわらかく話したつもりだったのだが、小細工は通用しないようだ。
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 フレンス・リクター率いるもうひとつの野党PFJPは改憲に支持を表明した。つまり、与党USPからどれだけ造反者が出るかで勝負が決まる。
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  改憲には250議席の2/3、167議席が必要だ
 
 USP保守派の票はグロリア・トーリーがまとめてくれているが、国民戦線の演説にひっぱられて保守派から造反が出るとまずい。どうなることやら……。
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 翌週、妻モニカとともにベンフィ芸術祭のオープニングセレモニーに出席した。モニカはスピーチ交代の一件があってから口をきいてくれない。

 どうやら私は誤った選択をしたようだ。オープニングセレモニーが彼女にとってそれほど大事な機会だったとは思わなかった。
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 カータン・レステ:USP政治家、アンリカ市長。ターキン・ソルに任命された。ナショナリストに人気がある。

 カータン・レステがスピーチを始めた。私は彼が話すのを聞くのは初めてだ。彼は芸術の堕落について話していた。いったい何を言っているんだ? この晴れがましい場で芸術家たちを攻撃するとは? 話は宗教におよび、不品行に対する攻撃に変わり始めた。
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 聴衆が不安定になっているのがわかった。ささやきはどよめきとなり、不協和音となってゆく。そのとき、私のそばでモニカが声をあげた。
「ミスター・レステ! もう十分です。そのくだらないおしゃべりをやめなさい!」
 私は困惑した。いくらひどい内容でも、スピーチはスピーチだ。邪魔をしてはいけない。
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 レステは女性がわきまえるべきことがらについて話し続けた。モニカは反論した。壇上でしばらく応酬が続いた。
 レステは私を見て言った。
「大統領閣下、あなたは自分の妻さえコントロールできないのか?」

 モニカは爆発しそうになっている。
 だが私はモニカを制し、レステにスピーチを続けさせた。

 翌朝、モニカは私に新聞を突きつけた。
「なにか言うことは?」
 複数の新聞がベンフィ芸術祭での出来事を大きく扱っていた。そこにはこう書かれていた。
『夫の助けを得られなかった妻』
 モニカは国民の前で恥をかかされていた。
 そのときには気づかなかった。いま気づいた。

 いざという時に家族を守らない男。そのように私は見られていた。大統領としてではなく、1人の男として。
「いまさら謝ってもらいたいとは思わない。ただ知りたいだけ。なぜ?」
 モニカは深く傷ついているように見えた。怒ることもできないほど、深く。

 さまざまな言い訳が脳裏に浮かんだ。
 その場の秩序。スピーカーへの敬意。芸術祭のオープニングセレモニーはそもそも女性の権利について話し合う場ではない……。

 だが核心的な答えはひとつだった。
 私は保守派の支持を失いたくなかったのだ。
 政治だ。よごれた政治屋の政治。

 正直にそう言った。
 モニカはその答えを予測していたように見えた。
「あなたはいつもそうだった」
「すまない」
「言葉、言葉、言葉。あなたは大統領でしょう? 言葉を安く売らないで。本当に望み、行動するときにしか言葉を発してはいけない。あなたには女性の権利など後回しにできるという思いがあった。違う?」
 私は何も言えなかった。

 モニカは続けた。
「たしかにあのセレモニーは声を上げるのに適切な機会ではなかったかもしれない。アントン、あなたにもう一度チャンスをあげます。私はファーストレディとして、教育相とともに正面からの教育改革を行いたい。支持してくれる?」
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 シアラ・ウァルダ教育相は抜本的な教育改革を求めている
 
 言葉に詰まった。
 都市部と農村部の教育格差は改善されるべきだと思うし、女子に対する良妻賢母的な教育も軌道修正すべきだ。

 だがターキン・ソルを敬い、祖国に忠誠を誓うことはなにも間違っていない。それに絶対に公立教育を維持しなくてはならない。民営化してオリガルヒの手に子供たちを渡してはならないのだ。複雑な思いがめぐる。モニカにどう答えればいいのか?

 かなり長く考えたあとで、私は言った。
「君を支持する」と。


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