Unhistory Channel 152 - パラドゲー記録

Paradox Interactive, Crusaderkings3, AAR

OIG.zd
夕暮れ、アルハフェリーア宮殿の窓辺にたたずんでいる。
乾いた風が吹き込むムデハル様式の馬蹄形アーチの下で、ジュリアンはハルチャ詩をいくつか暗唱した。

いま取り組んでいるアブルカシスの著作『解剖の書』第1巻はなかなかの難物で、アラビア語に堪能なジュリアンも手こずっている。だが、あそこの訳をこうしてみたらどうだろう。すっきり訳せるんじゃないか。これでいこう。

ジュリアンはあらたな着想を得ると、写字台に戻った。あたりが暗くなってきているのに気づいて、蜜蝋の蝋燭をつける。脇目もふらずに羽ペンを走らせる。アラビア語からラテン語へと、流れるように言葉が移し変えられてゆく。
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 ジュリアン・デ・ニーサ
 サラゴサ王
 学者traitを取得し、Learn on the Jobパークで重臣の能力の20%をサポートとして得ている

ジュリアンは父親に期待されない長子だった。
だが司教クラメンスの指導のもと、サラゴサの司教座聖堂付属学校で学び直した結果、豊かな学識を身につけた。彼はベルベル語とアラビア語を話すことができ、アラビア語書籍翻訳者として名を挙げつつあった。

ジュリアンが人を遠ざけ、隠遁生活を好む傾向にあったのは確かだ。だが幸いなことに彼は重臣たちの適切な助けを得て王国を統治することができた。
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 やさしの君、ヨランデ・ブラモン=ボルドー
 サラゴサ王妃
 「どんどん処理していくよ」

ジュリアンの2人目の妃ヨランデもよく夫を支えた。彼女は得意とする領地の管理を担当し、あまたの尚書部の文書にサインした。ある研究によれば、この時期の王妃のサインは王であるジュリアンのそれよりも効力があったという。
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 ヤアファル・デ・ニーサ
 アルマニャック伯
 「いくさのことは俺に任せてくれ!

弟のヤアファルは軍事面で兄を支えた。彼はサラゴサの騎士たちの長であり、その勇敢さで知られた。
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外交面では、妹たちが嫁いだトゥライトゥラーやクルトゥバの太守と盟を結ぶ一方で、アル=アンダルスのアミール、ヤアファル・イブン・ザカリイヤとの強固な同盟を構築した。

同盟は二重に構成されていた。末の妹フランセサをアル=アンダルスの第1王子サニョに嫁がせ、長男サヴァリクスの嫁にヤアファルの娘ギニマ・ビント・アイルーを迎えたのである。数代にわたるングン家とデ・ニーサ家の婚姻によって、両家の間にはなかば血族のような親密さが芽生えつつあった。
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 1221年のヒスパニア
 ほぼ三国鼎立状態となり安定している
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ジュリアンはさまざまな書籍を収集した。そのなかでも白眉の品は宝石飾りつきのクルアーンだった。これは子なくして死んだバルセロナ家のジェオフロイから相続したもので、プルツェリナという写本師の手になるものだ。
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そのほか、特に力を入れていたのはアラビア語技術書の収集だった。ジュリアンは技術書の一冊から改良水車についての記述を見つけ、これを試作させた。うまくいくことがわかると、これを領国の水路に導入した。水車は製粉だけでなく、製材や鍛治にも使えた。ジュリアンのアラビア式水車はサラゴサからオクシタニア、フランスへと広まっていった。
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 「オトギリソウは聖ヨハネの日に収穫するの。
 気分がふさいだ日に煎じて飲むのがいい」

妃ヨランデは本草学に造詣が深く、アルハフェリーア宮殿の中庭でさまざまな薬草を育てていた。ジュリアンは何事においても詳しく知りたいという気持ちが強い人だったので、そのひとつひとつについて妃に質問を投げかけた。ヨランデは辛抱強く答え、そうするうちにジュリアンは本草学の魅力に取りつかれた。そうしてまた書庫に本が増えたのだった。
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 「水は通すが、あなたは阻まれる。
 よくないことが起きる。よくないことが起きますぞ!」
 偏執的ゆえに232ストレス
 ストレスレベルを0にしていなければ死んでいた

こんなこともあった。
旅行中、隠者から不吉な予言を受けたジュリアンは、そのことで頭がいっぱいになり、何も手をつけることができなくなってしまった。サラゴサに帰って妃ヨランダに相談した結果、宴をひらいて心を安らげることにした。

だが生来の臆病さが邪魔をして、宴で楽しむことがまったくできない。水か……。余に水を持ってきたあの男はたくらみごとをしているのではないか。あの女の目つきが気に入らない。毒見役が余を裏切っているのではないか。などなど。つくづく損な性格をしたものだ。

結局、塔に引きこもって本を読むことでしかジュリアンの恐怖を鎮めることはできなかった。そう、本は裏切らない。
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このように塔にこもっているジュリアンの決断は遅く、さまざまな好機を逃してしまうことがあった。

主の1224年、聖地サンティアゴ・デ・コンポステラを擁するガリシアを攻めたときもそうだった。緒戦でガリシア軍を破ったものの、同盟国であるはずのアル=アンダルス軍にモンテレイの戦いで蹂躙され、サンティアゴを取られてしまったのだ。

実はすでにアル=アンダルスのアミール、ヤアファル・イブン・ザカリーヤがガリシア攻めを命じていたことをジュリアンは知らなかった。あと3ヶ月早く宣戦していれば先んじることができたのに……。
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こうしてジュリアンのせいでキリスト教世界はサンティアゴ・デ・コンポステラを失った。以後、同地はアラビア語でヤント・ヤクーブと呼ばれることになる。ジュリアンは人々の嘲りを受け、『臆病王』という不名誉な二つ名を帯びることになってしまった。
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この敗戦のあと、叔父でマレシャルのレオン公ベレンゲルがサラゴサ王位を公然と請求し始めた。ジュリアンのがっかりしたのは、弟のヤアファルがその一味に加わっていたことだ。あんなに信頼していたのに……。ジュリアンはヤアファルを牢獄にぶちこむと、少し泣いた。
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主の1228年、シェンシルのアミールがガリシアを攻め、ガリシア王国は地図から消滅した。

ヒスパニアはサラゴサ、アル=アンダルス、シェンシルの三国鼎立の状態となった。アルアンダルスは兵力6万、シェンシルは3万。いずれもサラゴサの2万より上だ。サラゴサが南へこれ以上拡大することは難しく、手詰まりとなってしまった。
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 健康に黄信号

ジュリアンは50を過ぎてから身体の不調に悩まされるようになった。薬草を煎じたり、医学書を読んだりしても体調はよくならない。
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「残された時間は少ない」
そう思ったジュリアンは、かねてから構想していた翻訳を開始することにした。書物の名は『知恵の角灯』。クルトゥバの図書館から譲ってもらったこのすばらしい医学書をラテン語に翻訳しようというのだ。

ただ、この事業には金がかかり、それ以上に心労がひどかった。ジュリアンは翻訳事業に没頭し、そのせいで何人もの友人を失った。だが果実は実り、3年後に翻訳は完成した。

「これでもう、いつ死んでもいい」
そう思ったジュリアンだが、この医学書を訳したことで体系的な医学の知識が身につき、食事、睡眠、適切な運動などによって四体液のバランスを取る方法を学ぶことができた。彼は以前より健康になりさえしたのだ!
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 健康パークツリーを完了
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 デニア伯ベレンゲル
 ジュリアンの家令
 数少ないカロリング家直系で、バレンシア土着のノルド語を話した

主の1237年の聖霊降臨日も近づくころ、ジュリアンはアルハフェリーア宮殿にてデニア伯ベレンゲルの訪問を受けた。ベレンゲルはなにか言いたいことがあるようだった。
「陛下、地中海沿いの海港がさわがしくなっています。いくつもの商会が食糧を買い占めています。近々大きないくさがあるようです」
「震源はどこだ?」
「教皇庁です。ローマからヨーロッパ中に使節が飛んでいます」
「いくさはイェルサレムか」
「いえ。アル=アンダルスです」
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 十字軍が宣言される

「アル=アンダルスは同盟国だ。なんとか助けられないか」
「サラゴサがキリスト教国である以上は無理でしょう。陛下も信仰を疑われぬよう資金を供出したほうがよいと思います」

ジュリアンは妃のヨランデにも意見を聞いた。
「もし十字軍が成功したら、あなたは国境の南に巨大な敵国を抱えることになります。すぐに隣国トゥライトゥラーにいるあなたの妹エルメンガルダを通じてアミール・ヤアファルに情報を伝えるべきです。そしてアミールに対して継続的な資金援助をしましょう」
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 トゥライトゥラー太守ワハブ
 アミールの家令
 ジュリアンの甥

「母から事情は聞きました。すぐにアミールに伝えます」
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そうするうちにもキリスト教軍への参加者は膨れ上がり、29万にも達した。ほぼヨーロッパ全域からの参加者ということになる。
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主の1238年の待降節、キリスト教軍はサラゴサ王国の港カステリョンに上陸した。それをアル=ブントで待ち受けるサラセン軍。一触即発の危機に、ジュリアンはサラゴサ軍を動員して注視した。
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同じころ、アルハフェリーア宮殿の厨房女が惨殺されるという事件が起きた。ジュリアンは小事にかまけていられないので調査を命じて終わりにした。しかし宮廷での殺人は続いた。犯人はわからないままだった。
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そして別の事件が起きた。
ジュリアンの尚書長ドゥラーフがサラセン人と間違われ、十字軍に捕まって火炙りにされたのだ。なんということを……。
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さらにトゥライトゥラーにいる妹のエルメンガルダが病死した。
迫りくるいくさ、尚書長と親友の死。ジュリアンの心労は極限に達しようとしていた。

いつものように書を持って塔にこもるか?
それが許される状況ではないことをジュリアンは知っていた。彼は歯を食いしばり、宮廷にとどまった。
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 1239年8月2日
 アティエンサの戦い

サラゴサのすぐ近くを十字軍が行軍し、南へ向かってゆく。
南からはアル=アンダルスの軍勢が北上してくる。

両軍はアティエンサで激突した。
そして戦いの帰趨は——サラセン軍が勝利をおさめた。
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翌年5月、教皇ステファヌスはヒスパニアからの撤退を命じ、キリスト教軍はちりぢりばらばらになって故国へと帰っていった。ここに十字軍は敗れたのである。
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 ヤアファル・イブン・ザカリーヤ
 アル=アンダルスのアミール

「わが従兄弟よ、おまえが情報をくれなければ我が国は負けていた。感謝している」
「同盟国を失うわけにはいかないからな」
「これからも共に手を取り合ってゆこう」
「ああ……だが」
「どうした?」
「ヤアファル、私はもう永くはない。医学をかじっているからわかるんだ。私のプネウマはもう尽きて、体液は乾きつつある。さらばを言っておこう」
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だが、ジュリアンが死ぬより先に妃ヨランデが死んだ。
宮廷での連続殺人犯がまだ暗躍していたのだ。ヨランデはベッドの上で血に濡れて発見された。

殺人犯の捜査は行き詰まっていた。
そしてジュリアンの寿命も尽きた。妃を殺した者の名を彼が知ることはなかった。彼は悲嘆のうちに死んだ。
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 ジュリアン・デ・ニーサ(1177-1240)
 サラゴサ王
 期待されぬ王だったが、学ぶことで身を立てた

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心臓が跳ねるようだ。
呼吸は荒く、足は鉄のように重い。
だが休憩を取れば二度と立ち上がることはできないだろう。岩場のはざまに咲くピレネーアイリスの群落が冷たい風に揺れている。

見上げれば、アネト峰は目の前にある。
だがあそこへたどり着くにはまだ数刻はかかるはず。アンセルは立ったまま小休止をすることに決め、供の者にそう命じた。岩によりかかって葡萄酒とチーズを口にする。何も考えられない。吐く息が落ち着いて、体温が下がってくる。

少年時代の終わりにアネト峰を征服するというのはいい思いつきだった。親政を始めればピレネーに来ることも難しくなるだろう。清冽な空気を味わい、汗にまみれて雲海を見下ろすことができるのもこれが最後かもしれない。

体の熱が去り、筋肉に力が戻ってきた。
アンセルはまた斜面を力強く登り始めた。
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 アンセル2世・デ・ニーサ
 サラゴサ王
 山岳を駆ける戦士

主の1175年、あの『サンベルトランの血浴』でキリスト教世界を震撼させた『強き腕のアンセル』の孫、アンセル・デ・ニーサが成人した。彼は肩に剣を受け、晴れてサラゴサの騎士となった。

アンセルは高地アラゴン領に預けられていたので、ピレネーの荒々しい斜面で育ち、健脚で知られた。彼は多くの峰々を征服し、サラゴサに帰るたびに登頂の記録を年代記に書かせた。
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 『賢しの君』タメント・ビント・ヤアファル
 アル=アンダルスの姫君

アンセルは王冠を戴かずに、かわりにターバンをつけた。
サラセン人にかぶれていたからだ。運の良いことに彼の妃はサラセン人で、アル=アンダルスのアミール、ヤアファル・イブン・シタラの娘タメントといった。
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 ヤアファル・イブン・シタラ
 人好きのする優しい支配者
 
アンセルは婚礼でタメントやヤアファルと大いに気が合い、それぞれの友人となった。アル=アンダルスとの同盟はサラゴサの伝統だが、それに個人的な紐帯が加わり、同盟はさらに強固なものとなった。
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 Customsを進め、多文化主義に
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ヒスパニアでは南ガスコン人は少数派にすぎない。圧倒的多数のサラセン人とうまくやっていくためには相互の理解が必要だった。アンセルは16歳になる前にベルベル語を、20歳になる前にアラビア語を習得した。
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 1182年、ウェールズ遠征

アンセルの初陣はヒスパニアから遠く離れたウェールズだった。ヨルヴィクのノルド人に攻められたウェールズ王エルフリクが救援を求めてきたのだ。彼はアンセルの義理の叔父にあたる。助けなければいけない。
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アンセルはバスク人たちに船を出させ、ピレネーの軽歩兵を率いてウェールズとイングランドを荒らし回った。山がちな地形で彼はその真価を発揮し、『山鬼のアンセル』と呼ばれたという。彼はいくさの合間を見てウェールズの最高峰に登頂し、その山頂に剣を捧げた。

主の1184にはノルド人の都ヨルヴィクを陥すところまでいったが、翌年にイニシュモン島で大敗を喫し、命からがらヒスパニアへ戻った。
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 ベルナト=エツィ・ポルト
 ウエスカ伯、家令

「まったく無駄な遠征です! 13000いた兵を4000にまで減らして、軍資金も1000リーヴルあったのが200しか残っていない。サラゴサに得があるわけでもない。いったい何をしたかったのですか?」
「外地で5年戦えばどれくらいの損失があるかを知ることはできた」
「屁理屈を。あなたがただ戦いたかっただけなのは見ていてわかります」
「それなんだが、もう一度だけウェールズへ兵を率いて戻りたい。あと少しでノルド人を倒せるんだ」
「ええ……」
「頼む!」

主の1187年、アンセルはウェールズの王都カーディフへ再上陸して当地を奪還。いくさはウェールズ王エルフリクの勝利で終わった。サラゴサへ戻ったアンセルは家令ベルナト=エツィにきつく叱られ、以後は無用の遠征をしないことを誓わされた。

ほどなくしてアンセルはその約束を破り、ブロワ伯のためにフランスで戦い、アル=アンダルスのためにクルトゥバで戦っている。しかしこれらの戦いについての史料は少なく、詳細をここで述べることはできない。
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 ニトラボル・ゼムプリーンスキー
 アンセルの侍医をつとめた従兄弟

さて、そのころボヘミアでは放浪者ドブロスラフに王位が回ってきて、その妻アヴァ・デ・ニーサと子供達がサラゴサからプラハへ旅立つという出来事があった。

アンセルはアヴァの子ニトラボルを兄のように思って育ったので寂しいかぎりだった。
「プラハへ行っても元気でな」
アンセルがそう言うと、ニトラボルは不安げに答えた。
「どうかな。デ・ニーサ家の禄を食んでいた俺たちはゼムプリーンスキー家の裏切者と思われている。毒蛇の庭に足を踏み入れるようなものかもしれん」

ニトラボルの言葉はどうやら正しかったようだ。
プラハに行って数年後、アヴァは行方知れずとなり、ニトラボルもまた殺されてしまった。そのことを知ってアンセルは悲しんだが、彼らの復讐は思いとどまった。もうゼムプリーンスキー家との争いは終わっているのだ。ふたたび憎しみに火をつける必要はない。
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アンセルは小さなキリスト教諸国の征服に精力をそそぎ、主の1187年にはバレンシアのカステリョン領を攻略、主の1189年にはレオンのアビラ領を攻略した。またアルマニャック公ブルーノを外交的に臣従させ、サラゴサ王国の領地を地道に広げた。

いずれの戦争でもアル=アンダルスのヤアファル・イブン・シタラから援軍をもらっている。サラゴサにとってアル=アンダルスの兵はなくてはならないものとなっていた。
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 ベレンゲー・デ・バルセロナ
 アビラ伯、アンセルの異父弟
 かつて栄華を誇ったゴティアのバルセロナ家末裔のひとり 

「アンセル、アビラ領を任せてもらってありがたいが、耳に入れておきたいことがある」
「なんだ」
「ガルガメルのことだ」
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 ガルガメル3世・デ・ニーサ
 尚書長、カスティーリャ公
 アンセルの幼少時に1度反乱を起こしている
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 やりたい放題のガルガメル
 赤は彼の領地
 「俺の領地に接しているおまえが悪い」

「彼はほうぼうに戦争をふっかけ、どんどん領地を広げている。このアビラも危ないかもしれん。アンセル、おまえのほうで彼をなんとか止められないか」
「止めはしている。だがサラゴサ王国の半分は彼の領地だ。なかなか言うことを聞いてはくれない」
「いまのうちになんとかしておかないと、後々えらいことになるかもしれんぞ」
「……そうだな」
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主の1195年、アンセルは騎士たちを引き連れてイシビリヤー(セビリア)での武芸大会に参加した。

「騎士たちよ、おおいに飲んでくれ!」
一行はキリスト教徒向けの酒場へくると、戦いにきたのか酒を飲みにきたのかわからないほどに酔い潰れた。これを見たイシビリヤーの人々はみな驚き呆れた。
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 敗北を知りたい

アンセルはしこたま酔ったまま大会に出て、それでいてレスリング競技では優勝してしまう。もっと強い奴はいないのか。俺は、俺より強い奴に会いにきたんだ。
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 武勇45に達する

順風満帆のアンセルだが、ひとつだけ泣きどころがあった。
長男ジュリアンのことだ。
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 ジュリアン・デ・ニーサ
 偏執的、暴食、臆病

ジュリアンは父にまったく似ないので有名だった。彼は臆病な本の虫。かといってなにかひとつの学問に秀でているわけでもないのだ。
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 トースティ・サイレンディング
 アンセルの護衛役、北からきたノルド人
 サラゴサの子弟はみな彼が剣を教えた

「ジュリアン様はどれだけ練習しても上手くなりません。まれにそういう人がいます。失礼ながら、剣の練習をする時間でほかの勉強をしたほうがいいのではないですか」
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バルセロナ女公の娘ヴァレリアとの結婚式でも、ジュリアンは気の利いたことも言えずに座っているだけ。息子よ、なんでもいい。なんでもいいから話しかけるんだ。

だが、とうとうジュリアンとヴァレリアは何も言葉を交わさずに式が終わってしまった。アンセルは表にこそ出さなかったが、ひどくがっかりした。
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 次男ヤアファル
 アル=アンダルスの義父ヤアファルの名をもらった

ジュリアンに比べれば、次男のヤアファルのほうがまだしっかりしていた。ちょうどそのころアルマニャック公が子のないまま死去していたので、アンセルはヤアファルにアルマニャックの2領を任せることにした。
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主の1202年、義父ヤアファル・イブン・シタラが死んだ。これまで数々の戦いで鞍を並べてきた親友の死を知って、アンセルはいたく悲しんだ。さらば友よ。君なら天の国に入れたことだろう……。

悲しみはさておいて実務的な話をすれば、アル=アンダルスとの同盟が切れたのは痛い。そして新アミールのザカリーヤ・イブン・ヤアファルはどうも同盟を結ぶ気がなさそうなのだ。

ここでアル=アンダルスから攻められては元も子もない。
アンセルは妃タメントを使節に任命し、アラルコスのアミールの宮廷に送り込むことにした。

タメントは言った。
「どうするの。兄は同盟に賛成しないよ」
「せめて和平を買えないか」
「どれくらいの期間?」
「15年、いや25年はほしい」
「1000ディーナールくらいの出費は覚悟しておいて」
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実際には『25年の和平をあがなうのに1125ディーナールかかる』という知らせをタメントは持ち帰った。高額な出費だが、しかたない。払おう。

ところが2年もしないうちにザカリーヤは死んでしまい、大金をつぎこんだ和平はその効力を失ってしまった!

金貨で平和をあがなおうという考えが甘かったのだ。
やはり血のつながりより濃いものはない。これを思い知ったアンセルは、手をつくして次のアミール、ヤアファル・イブン・ザカリーヤの長男サニョと娘のフランセサとの婚約をとりつけた。
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 アル=アンダルスとの同盟復活
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主の1211年、アンセルはレオン王を服従させ、またガリシア王をわずか1州にまで追い詰めた。

アンセルは戦場では無敵だった。
幾度となくカンタブリアの山々を越えて、レオンへ、ガリシアへと侵攻した。彼は聖地サンティアゴさえ我がものとしたのだ!

山岳は彼の舞台であり、アンセルはそこで死とダンスした。
ピレネー軽歩兵の投擲する投槍は敵の喉をつらぬき、彼らの鬨の声は谷々にこだました。アンセルの率いる軍勢は神出鬼没で、日に10レグアを踏破した。

「聞け! 聞け! 鉄が目覚めるぞ!」
アンセルがそう呼ばわると、人々は猛きバスクの血を彼の中に見たのだった。
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 アズナール・デ・ニーサ
 ポルトゥカーレ公
 美男で知られた

アンセルはいくさで功を立てた親族のアズナールをポルトゥカーレ公に取り立てた。
「以後、公としてサラゴサに忠勤を誓いましょう」
「期待しているぞ、アズナール」

アズナールはアンセルに問うた。
「あなたはなぜサラセン人を攻めずに、レオンやガリシアのキリスト教徒ばかり攻めているのですか?」
アンセルは彼に答えた。
「まず、サラセン人のアミールたちはあまりに強大で誰も手を出せない。だがそればかりが理由ではない」
「つまり?」
「俺はヒスパニアに平和をもたらしたい。そのためには俺がヒスパニアにおけるキリスト教徒を統べ、唯一のキリスト教徒の王となり、サラセン人とのいくさを止める必要がある」
「なるほど。たいした野望ですね」
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 イベリアの闘争のゴールをDetenteと見定める
 未達条件はConciliationフェイズと、ヒスパニアの諸王との同盟
 つまりヒスパニアに王が少なければ少ないほどいい
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 カタリナ・メネンデス=コルーニャ
 ガリシア最後の女王
 「かかってくるがいい!」

主の1214年、アンセルは兵を起こしガリシア王国最後の州トゥイを攻めた。

いつも通りの進軍。いつも通りの包囲。いつも通りの降伏勧告。
なにも起こらないはずだった。女王カタリナはあっさりとアンセルに膝を屈するはずだった。だが——。

サラゴサ軍の先鋒を務めたポルトゥカーレ公アズナールは、カタリナ女王と話をつけるとさっさとガリシア王位の継承を宣言し、サラゴサ王国から分離独立してしまった。
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 やってしまった
 アズナールのトゥイ伯位請求権ではなくガリシア王位請求権で宣戦していたらしく、戦争が終わった瞬間独立されてしまった
 「王になってみたいと常々思っていたのだ」
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かくして『ヒスパニア唯一のキリスト教徒王になる』というアンセルのもくろみは失敗に終わり、聖地サンティアゴ・デ・コンポステラも失われた。主の1219年のヒスパニアには4人の王がしのぎを削ることになった。


アンセルは老いた。
最後に山に登ってからもう十何年になる。かつての敏捷さも耐久力も失われ、死すべきさだめを待つばかりだ。

だが、彼は人生の最後に山に帰ることを望んだ。
そういうわけで彼の墓はサラゴサ大聖堂ではなく、ピレネーの峠の小さな教会堂の中にある。そこをわざわざ訪れる者は少なく、旅の途中の巡礼たちがその教会で足を休め、祈るばかりだ。
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 アンセル・デ・ニーサ(1160-1221)
 サラゴサ王
 戦いにあけくれた一生だった

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