指輪戦争が始まってから、長い月日が流れました……。
わたしも年老い、子供達は立派な大人になりました。
その間に何があったかをかいつまんでお話ししましょう。
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わが夫、褐色人の王ブラン・アヴァンク=ルスはエリアドールの開拓に力を注ぎました。ヌーメノール人に焼き尽くされ、破壊し尽くされた土地にハレスの民を送り続けたのです。
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 フオルン(木の精霊)たちを排除し、ウィルダネスの開拓を進める

しかし試みのほとんどは失敗しました。
入植地は狼に襲われ、病がはびこりました。
それでもいくつかの入植地が荒野に築かれ、ブランは広大なエリアドールをとりあえず「所有」することになったのでした。
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 褐色人の国は拡大したが、その人口はきわめて希薄

迷走するゴンドール
minas
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ゴンドール=アルノール王となったエレスサールは王都ミナスティリスを失いました。あまたの武勲が生まれましたが、物言わぬ死者はそれよりもはるかに多かったのです。

辺境の国々は王に救いを求めました。ところが王は失地を埋め合わせるつもりだったのか、友邦だったはずのローハンを攻め、東エムネトをわがものとしたのです。

このいくさは自分たちを「正義」だと思っていた白の勢力の人々に重い影を投げかけました。
 
「ヌーメノールの王ですら、弱い国を食い散らかして生き延びねばならぬ時代なのか」と。
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またエレスサール王はサルバドの領主カレングラドに命じて、褐色人の入植地を襲わせ、サルバドの周囲をゴンドール領としました。ほとんど血は流れませんでした。夫ブランがすみやかな降伏を命じたからです。
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 東で失った領土を西で求めるゴンドールの姿は無様の一言
 ただしローハンはいい気味である 

わが夫ブランは髪をかきむしって悔しがりました。しかし友邦すら襲う卑劣な大国相手ではどうにもなりません。彼は改めてゴンドールのエレスサール王に臣従すべきか考え始めました。
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 エルレア姫はゴンドールの華麗な文化を褐色人の国へ持ち込んだ

ひとまずわたしたちはゴンドール西端に領地を構えるアンドラスト公国と同盟することにしました。公の姫君エルレアを長男ヤントの妃として迎え、強固なつながりを作ったのです。アンドラストの人々はドゥニール人であり、ゴンドールに臣従したハレスの民です。
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 ピンナス=ゲリン、武勇で名高いマブルング公

アンドラスト公国は隣国ピンナス=ゲリンのマブルング公と争っており、ピンナス=ゲリンのイセン谷北進を快く思っていなかったので、これは双方にとってよい同盟でした。
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またわたしたちの長女プラウストは我が実家であるルダウア王家の世継ぎ、ギンタラス・ブトヴィダセンに嫁ぎました。
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その頃ルダウアは北のオークの国アングマールと戦っていました。夫ブランは若き日のように再び北へ遠征に向かいました。今度は息子のヤントも一緒です。彼らの奮戦のおかげでわたしの故郷は守られました。
 
晩年
ブランは年を取っても本当に勇敢な人でした。彼は戦いを愛していたのでしょう。
エネドワイスの中央に植民してきたオークの部族と一騎打ちをすると言い出したときは本当にどうしようと思いました。
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 おそらく霧ふり山脈のモリアから?出奔してきた
 ブルズ=ハイ部族のオーク、征服者ゴルル
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 部族一の武勇者と刃を交える

案の定、牢に囚われてしまいました。
もう年ですし、オークの牢でどんな扱いを受けているか気が気ではありません。わたしはルダウアからもお金を借りて、なんとか金を積んで彼の身柄を買い戻しました。
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 意外にオークは話せる種族だ

わたしたちは交渉を有利にするためゴルル暗殺をオーク側有力者と交渉さえしました。結果わかったことは、オークもやはりエダインと同じで裏切りも金で転びもするということです。

ブランは金で解放されたことにいたく怒っていました。殿方とは面倒くさいものです。「わしはオークの牢で朽ち果てるほうがよかった」などと死ぬまで言っておりましたね。

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 11387、ブラン2世死亡時の中つ国
 赤線右は冥王の勢力、左はエルフ、ドゥネダイン、人間の勢力

夫が死んだとき、わたしたちエダインの種族はまだ冥王に対して持ちこたえていました。
まあいろいろありましたけど、わりにわたしたち、いい夫婦だったのではないかしら。

わたしたちの世代は激動に次ぐ激動の時代でした。
これからは激動はありません。長く続く一進一退の攻防の時代です。わたしの息子ヤントはおそらくエレスサール王に臣従し、アンドラスト公とともにハレスの民を守り育てていくでしょう。そして娘のプラウストは北の要ルダウアを妃として支えていくでしょう。

アウスラ
客人よ。そなたはわたしの話をこれで全部聞いたことになります。
わたしはアウスラ、何も知らない山育ちの女。ずっとこのガルトレヴの館で小さな世界を見てきました。

そなたが次に寄る宮廷で、わが夫ブランよりもっと優れた英雄の話を聞くかもしれません。でもこれはわたしにとっては唯一無二の愛する英雄の話。
名称未設定
そなたはこの話を羊皮紙の束にして残し、そして褐色人の王ブラン・アヴァンク=ルスの名を永久に称えよ。
ああ、急ぐことはありませぬ。蜂蜜酒のおかわりはいくらでもありますよ。