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「そのとき、馬の民が鬨の声をあげて攻めてきた! 俺たちはほうほうのていで浜辺へ逃げもどり、必死に櫂をこいで船を沖に出した」

時は夕暮れ。
昼は砦の建設に汗を流していたタンタルキャの人々も、しだいに館へ集まってきた。松明がともされ、丸のままの豚が炎の上でくるくる回り、子供たちはみな炉端に集まって武人トティル・スミズの話を一言も聴きもらすまいとしていた。
totil
 トティル・スミズ
 コーヌガルズのジールの部下だが、タンタルキャに居ついた

「宝物はとったの?」
「敵は船で追いかけてきた?」
「もちろんやっつけたんだよね!」
子供たちが黄色い声で叫びたてる。

トティルはゆっくりうなずくとこう言った。
「ああ、もちろんやっつけたとも。そのあとまた上陸して、お宝を根こそぎ持って帰ってきた」
「すげえ!」
「トティル、次の遠征に連れてって!」
「僕も!お願い!お願い!」
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「トティルはセルクランド(アッバース朝、ここではカスピ南岸)まで行ったの?」
わめき声の中、よく通る声で質問を投げた少年がいた。

「行ったぞ。セルクランドの騎兵は強い。それに素早い」
「僕はいつかセルクランドを征服したい。そのために剣の練習をしてるんだ」
「ティケならできるとも。おまえの親父スヴェルケルはハザールと戦ってこのタンタルキャを征服した。彼の血はおまえにも流れている」

「ぼくも!ぼくにも!」
そばにいたもう一人の少年が叫んだ。
「そう、もちろんおまえもだ、アルフ。おまえたち二人はビャルトラの槌、トールの雷鳴だ。みんなをまとめて仲良くし、そして大きくなったら船団を率いてセルクランドへ行くんだ」
「行こう!行こう!ぜったい行こう!」
 
大喜びの子供たちを見て、トティルは満足そうに蜂蜜酒をあおった。

タンタルキャの建設
タンタルキャの建設にはかなりの年月がかかった。
 
なにしろそれまで馬の民の牧草地でしかなかったところに、立派な木の砦と町を作り上げようというのだ。ガルダリキのあちこちからひっきりなしにクナールがやってきて、黒き海のほとりに荷を降ろし、またダンパル河を遡っていった。
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 ver2.4より遊牧民の土地はただの空きスロットの羅列と化した
 ここに集落を建設すると文化・宗教がいきなり移殖されるので驚く

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スヴェルケル亡きあと、タンタルキャの建設を指導していたのは次の三人である。すなわち未亡人マエル、千里眼のダグ、黄金の手のフロディ。

彼らは船団を各地(特に帝国領)に送り込み、毛皮と奴隷と蜂蜜を売りさばいた。そしてその狡智と恐怖によってさらに富を積み上げた。

またスヴェルケルの息子ティケに確実にタンタルキャを渡すため、さまざまな策を講じた。
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その策のひとつがペチェネグとの同盟である。
平原において急速に勢力を伸ばしつつある遊牧民マジャルは、タンタルキャにとっては重くのしかかる石の蓋だった。マジャルがいる限り、タンタルキャは盟主であるスヴィドヨッドとも、友邦であるコーヌガルズとも遮断されてしまっている。

そこで馬の民ペチェネグの姫イルディズをティケの嫁に迎え、東から睨みをきかせる。またブルガールやハザール、ペチェネグの若者たちに宿を提供し、一朝ことあれば皇帝の金貨を払って騎兵として雇えるようにする。

こうしてあとはティケの成人を待つばかりとなった。

族長ティケ
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 スヴェルケルの子ティケ、成人
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 ついで弟アルフも成人
 アルフはホルムガルズの姫イリアナを娶る

それから数年が経った。ティケは野心あふれる若者となり、弟アルフはよき武人となった。二人は仲が良く、手に手をたずさえてタンタルキャを統治した。
だがすべてがうまくいったわけではない。

ティケの娶るはずだったペチェネグのイルディズ姫はタンタルキャに来なかった。先方の事情があったとはいうが、ティケはマジャルの差し金を疑っていた。彼らはさらに強大化し、ペチェネグはマジャルの東進に怯えるようになっていたからだ。
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かわりにティケはジーリの娘アルフリズを娶った。
コーヌガルズ育ちの機転の利く娘で、ティケをよく助けるかと思われた。しかし初子スヴェルケルをもうけたあと、不義の現場をみつかった。

ティケは父親の友であったジーリの顔を潰したくなかったのでこの醜聞を握りつぶした。しかし夫婦の間にできてしまった隙間は生涯埋められることはなかった。
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心配事はほかにもあった。
スヴィドヨッドでは2回王が代わり、鉄人ビョルンの孫トルステンが即位していた。だがこの新王は心が弱く、貪欲で、快楽にふけるばかりといううわさがガルダリキにまで伝わってきた。

有事の際にはスヴィドヨッド王軍の出師を期待したいタンタルキャだが、このような王がガルダリキを越えて黒き海のほとりまで援軍を送ってくれるものだろうか? ティケにはそうは思えなかった。
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 当代最強の馬王アールパード

一方、マジャルには公正王アールパードが即位した。
きわめて強力な王で、その軍勢はついにミクラガルズの友邦グルジアを隷従させてしまった。部族としては西方のパンノニア・アールパードと平原に居座った遊牧アールパードに分かれるようだが、総合して強力なことに変わりはない。
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 ハザールはマジャル、ペチェネグ、ビザンツに分割され滅亡した
 マジャルはさらにグルジアを飲み込んだ
 ジーリのノルド王国はスラブ化しコーヌガルズをキエフと改名

水路で繋がっているとはいえ、陸地としてのタンタルキャは完全にマジャル領に取り囲まれてしまったのだ。

弟アルフは言った。
「タンタルキャを失うこともあり得るぞ、ティケ」
「見たこともない北のビャルトラに帰れというのか」
「最悪の場合はそうなる。だが、少なくともマジャルの心配をしなくてよいところに領地を持つべきだ」

ティケは首を振った。
「半端な領地は要らない。領地ばかり多くても分割継承で持っていかれるからな。タンタルキャに館をたくさん建て、北方から戦士たちをたくさん呼んで、一気にセルクランドへ攻め込む。それが俺の考えだったのだ。しかし……」 
「そう、状況が変わった。早急にめぼしい避難地を選ぶ必要がある」
「おまえの言うとおりだ、アルフ。しかし、ままならないものだな。子供のころは族長になればなんでも好きなようにできると思っていた」
ティケは心底悔しそうだった。

リフランドの征服
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ティケとアルフが目をつけたのは西ドヴィナ河の河口、リフランドだった。ここはウプサラとキエフを結ぶ航路の入り口にあたり、今後どこへ展開するにも自由がきく。

ティケは手勢のノルド人1000名を中核として、スラブ人、馬の民から総勢5800名にのぼる軍勢を編成した。タンタルキャに寄食していた馬の民の王子たちは「出番がきた!」とばかりに奮い立った。
軍勢
 ノルドの軍には珍しい軽騎兵・弓騎兵に振った編成
 いずれの連隊も遊牧民傭兵が指揮をとっている

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ノルドの長き船は大挙して河口に押し寄せた。
リフランドの族長ナルカは兵2500をそろえて迎え撃ったが、この地では見られたことのない東方の平たい顔の騎兵たちが彼の軍勢を蹂躙した。

そこでナルカは森に逃げ込んだ。しかしスラブの雑兵たちがこれを追い、森の中でナルカを討ち取った。
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日が沈み、また日が昇った。
いまやスヴェルケルの子ティケは『タンタルキャとリフランドのヤルル』となっていた。

戦いにおいて雷神トールの加護があったので、彼はそれを記念して盾に雷鳴のしるしを帯びた。そこで人々は彼を『雷鳴のティケ』と呼んだ。
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 Subjugation Warで公爵級領地を得たため
 自動的にスヴィドヨッド王国から離脱(独立)している

栄光のルーシ
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 異邦人ジーリ、老いてなお盛ん

その頃ジーリは南部ガルダリキの制覇に成功していた。彼はルーシ王を称し、スラブ人の着るものを着、スラブの言葉を話して王国を統べようとした。しかしジーリはまだノルドの神々を信仰しており、ティケとの親交は絶えず続いていた。

ティケはこの新しい王国に参加すべきか迷った。
タンタルキャはタヴリダの、リフランドはリトアニアの領域であって、いずれもルーシ王の統べるところではない。また従う義理もない。

だがリフランドを征服したことによって、ティケの領地とジールの王国は接するようになった。マジャルの脅威を前にして、同じノルドの神々を信ずる者同士、協力してやっていくべきではないか?

ティケは腹を決め、ノルド人と遊牧民の護衛を連れてキエフへ向かった。そうして老ジーリに臣従を誓い、新しいルーシをともに盛り立てようと約束したのだった。
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 904年、ルーシ王国に参加

息子たち
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「リフランドにまた新たなノルド人入植地が完成しましたぞ!」

黄金の手のフロディはそうティケに報告した。
戦役から6年、寒さの厳しいスヴィドヨッドから移民を迎えるという政策は成功し、いまやリフランドの半ばはノルド人の住むところとなっていた。

これらの新領土をいかに息子たちに分け与えるべきか?
これが目下、ティケの頭を悩ませている問題だった。というのも本拠地タンタルキャはリフランドの領域ではないため、うまく領土を分配しないと第二子に相続されてしまうのだ。

ルーシ諸侯との交渉、新領地の経営、そしてこの相続問題。
近頃のティケはいささか疲れ気味だった。 
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まず、ティケは長子スヴェルケルに後を継がせるつもりだ。そうなるとタンタルキャをどうしても彼に与えたい。

そこでスヴェルケルを含む3人の親族にタンタルキャ以外のすべての領地を任せ、タンタルキャ領とヤルル位だけを持つことにした。代を継いだあかつきにはスヴェルケルがこれらを得ることになる。

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次男グンナルにはサーレマーの島々が与えられ、ティケの弟アルフは故地ビャルトラとラーネマーの2領を与えられた。アルフは満足し、ビャルトラの鮭のしるしを紋章として選び取った。

また戦士長として長く勤めたトティル・スミズにはその功績に報いてリーヴィマー領を与えることにした。トティルは目を細めてかつての教え子を眺め、うやうやしくお辞儀をして領地を受け取った。
 
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「わが父スヴェルケルは船団とともに来て、ハザールと戦い、この地を征服した。彼の知恵と勇気を記憶するため、スヴェルケルの息子ティケがこの石を作らせた」

領地の配分が終わったあと、ティケは父親スヴェルケルの事績をつづったルーン石碑を建立した。彼はセルクランドを征服したいと言っていた子供の頃を思い出し、かくもあてずっぽうな方向に転んでいった運命のさいころに少しばかり悪態をついた。

しかしティケはこうも思った。
「自分はまだ37歳であり、これからいくつもの戦役と冒険が待ち受けているのだ」と。
彼は機嫌を直して床につき、そしてそのまま亡くなった。
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ノート
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ガルダリキへのノルドの進出にともなって、その神々もまた広く信仰され始めた。ロリク(リューリク)の支配するホルムガルズは現地に同化してスラブ信仰になってしまったものの、ルーシ王国とトヴェリのヤルル(リューリク家)を中心にノルド信仰が根付いている。