イラシアン文明の研究
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「大発見だ。私たちは100万前の文明の遺物を発見した」
セルジオ・エルナンデス博士は興奮した口調でそう書いている。

2213年10月、第2象限の12時方向にあるビハム星系IIaで、星間文明の痕跡が発見された。

「複数のテキストを解析したところ、彼らは6肢を持つ哺乳類であったことがわかった。その文明は『イラシアン協約世界』と名乗っていたようだ。ビハムには彼らの小規模なコミュニティがあった。

『ジャヴォリアン痘』という疫病のために文明は崩壊したとあるが、これがなんなのかはわかっていない」
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 第2象限の4つの星系でイラシアン文明の遺物が発見された

翌年には銀河の最辺縁クロスロード星雲にあるビドトクス星系Iで軌道上のデブリが発見され、デザインや機構の類似性からイラシアン協約世界のものと同定された。

「この遺跡は大きな病院船/研究所を想像させる構造だ。どうやら疫病対策の指揮所として機能していたようだ。第2象限に広がっていたイラシアンの文明中心はこのときまでに崩壊し、辺境のビハムやビドトクスは最後の砦だったのではないか? 私はそのような仮説に達した」

「2214年4月、ガレンカ・オストロフスカヤ博士のプログレス2号が、ヒティマル星系で異文明の放棄された船渠を発見した。
『その特徴からイラシアン文明のものであることを同定した』
という彼女の知らせに私たちは大変興奮した」
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「私の目の前で、オストロフスカヤ博士が再構築されたイラシアン語で適切な指令を与えると、船渠は再び起動し、建造途中だった軍艦を完成させた」

「この過程でイラシアンの研究が進むとともに、人類が持たない技術のリバースエンジニアリングが多数行われた。特にエネルギーシールドの研究は飛躍的に進んだ。武装や人類向けの改装をほどこし『ソユーズ』と命名されたイラシアンの軍艦は、ソ連邦宇宙軍艦隊の旗艦フリゲートとなった」
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 これ以上の研究には☆5科学者が必要
 ソ連邦の科学者たちは最高でも☆4だ

「だがわれわれの研究は壁にぶつかった。解析できない情報システム、解読できない別の言語によるテキストが大量に出てきたのだ。共通する語彙があるのでイラシアン語と言語接触の状態にあったものと思われるが……」

「ビハムIIa、ビドドクスI、ヒティマルII、アルドクドIの4つの遺跡がこれまでに発見されている。いずれも100万年前のものだ。

イラシアンは完全に滅びたのか?
それとも姿を変えて生き延びたのか?
あるいは第2象限に生命播種をしたのか?

われわれ人類の起源にもつながる大きなテーマだ。
研究者よ来たれ! イラシアンの謎をともに解明しようではないか」

エルナンデス博士はそのように2219年の報告をしめくくっている。
 
シャンデリアの掃討
その頃、生物科学研究所は多忙をきわめていた。
大量絶滅研究、標本調査、宇宙生物5種の研究、そこにプログレス隊から送られてくるイラシアン文明の遺物の調査が積みかさなった。

研究者たちはひたすら新しいプロジェクトに追い回され、通常研究は後回しにされた。
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 温和なティヤンキ(宇宙イカ)
 害がないことが研究でわかると船乗りたちの心の慰めとなった
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 謎の鉱石ガランティウムが太陽系の小惑星ヴェスタから発見される
 使い方はよくわからない

しかし成果も上がってきた。
たとえば宇宙生物のシャンデリアの生態が解明された。彼らはどこかの母世界から派遣された斥候のようなものであるらしい。

シャンデリアは特殊な部位の共振によって通信を行っており、この部位を先に破壊することで、星系から駆除しても問題がないことがわかった。
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 宇宙軍初の将官、アアラブ・グプタ准将
 ソ連邦インド共和国出身
 特技は安く雇用できること

ソ連邦宇宙軍はアアラヴ・グプタ准将を艦隊司令官に任命し、宇宙軍初の作戦として『シャンデリアの巣』の掃討を命じた。

グプタ准将は任務に燃えていた。
作戦に備え、これまでただの鉱石輸送船にミサイルをつけただけだった警備艦を改装し、コルベットとして軍務に耐える形にした。
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コメータ級コルベット(スウォームアタック型AI)
敵に密着した戦闘機動を行いながら多数の小型ミサイルを発射
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モルニヤ級コルベット(戦列型AI)
コメータ級と組んで運用される中型ミサイル発射艦

艦隊はこの2種を1:1で構成された。
ソ連邦海軍出身のグプタ准将にとって、軍艦というものは戦術核ミサイルの射出プラットフォームだ。「とにかく火力、火力重視だ!」と口癖のように言っていた。

彼は長距離対艦ミサイル飽和攻撃を旨とする大艦隊を構想していたようだが、まだ技術が彼の頭に追いついていなかった……。
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 対シャンデリア戦闘
 技術的制約により宇宙では有視界戦闘となる

グプタ准将の艦隊は次々とシャンデリアを掃討していった。さらに准将はレヴォリューツィヤ近辺で発見された反革命テロリストの根拠地の破壊にも成功。勝利に勝利を重ねる事となった。

彼の名は『宇宙英雄アアラヴ・グプタ』として華々しく紹介され、宇宙冒険小説の主人公にもなったというが、それはまた別の話である。
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 みごと神速のtraitを獲得
 
蟻との戦争
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 ピオネール星系は3文明の焦点の地となった

2221年12月、マカロフ書記長はある決断を迫られていた。
ピオネール星系にて、ある異文明とのコンタクトがあったのだ。彼らは『マティン』と名乗る貝型の異星人で、蟻の帝国の向こうに住んでいる。
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アカデミーでは彼らに『牡蠣(カキ)』というコードネームを与えた。アワビのほうが似ているという者もいたが、アカデミーに牡蠣好きが多かったのかもしれない。

集産主義で異星人に友好的なため、牡蠣は同盟相手として有望なように思えた。しかし、牡蠣は蟻の帝国と緊張関係にあった。
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電子偵察によれば、蟻の帝国は牡蠣に対して戦争の準備を進めているようだ。もしこの戦争に蟻が勝てば、ソ連邦は将来の同盟国を失うかもしれない。

マカロフ書記長は、ソ連邦が拡張するためにいつか蟻とは戦わなくてはいけないと考えていた。しかしその機会がこれほど早く訪れようとは予期していなかった。
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 軍拡シフト

「戦争に備えよ。内乱や宇宙生物との戦いではない、本物の戦争だ」とマカロフ書記長は各研究機関に命じた。

レベジェフ物理研究所は対エネルギー兵器シールド。生物科学研究所では帝国拡張政策。コロリョフ設計局では駆逐艦建造技術について研究が開始された。

さらに敵地に隣接するピオネール星系では軌道港を建設、地球に合わせて建艦能力をこれまでの2倍にする。

現在のソ連邦の国力ではコルベットの保有数は19が限度だが、これを大幅に超えて29隻の保有を計画。すでに地球の軌道港はフル操業に入っていた。
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そしてやはりその時がきた。
2223年6月、トラクポシアン帝国(蟻)がマティン帝国(牡蠣)に対して宣戦したのである。
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 ヤロスラフ・マカロフ党書記長 兼 科学アカデミー総裁

2223年9月29日、マカロフ書記長はヴィド(立体映像)に姿を現し、全ソ連邦市民にこう呼びかけた。

「306年前、我々はツァーリの圧政に対して立ち上がり、勝利した。173年前、我々はブルジョア資本主義に対する闘争に勝利した。そして今、我々は星々の戦いに身を投じようとしている。

同志諸君、牡蠣の姿をした我々の同胞はきわめてプロレタリア的だ。要請に応じ、いま彼らを救わなければならない。肥え太った蟻の暴虐から同胞を守ろう。

我々はここに全銀河革命闘争の名のもとに、トラクポシアン帝国に対する防衛戦争を宣言する!」
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ソビエトが戦争を宣言するとき、それは常に現地から要請されたものである。決して侵略戦争ではないのだ。
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 2224年7月14日、ピオネールIVの戦闘

戦争は最初から主力艦隊の衝突で始まった。
ピオネール星系で待機していたソ連邦宇宙軍艦隊(総火力928)に、蟻の艦隊(総火力753)が突っ込んできたのだ。

グプタ准将率いるソ連邦艦隊はこれを迎撃。しかし初動の遅れが災いしたのか、24隻のうち19隻のコルベットを失うという大敗を喫した。敵艦もほぼ同数を屠ったのと、旗艦ソユーズを失わなかったのが不幸中の幸いだ。

「宇宙時代の戦闘というのはこれほどまでに徹底的なものなのか……」
マカロフ書記長は絶句した。

実はこのときピオネールIVの軌道港はまだ完成していない。つまりすべての補給と戦力補充をするためには太陽系まで戻る必要がある。開戦は時期尚早だったのだ。

艦隊が太陽系で補充を行っている間、ピオネールIVに対する爆撃が実行された。人類はこのとき初めて惑星爆撃の恐怖を知った。このときピオネールIVにいた植民者はみなその体験を黙して語ろうとしない。
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 太陽系の早期警戒網に不審機をとらえた

危機はこれにとどまらない。
蟻との戦争の真っ最中に、未知の文明の探査船が複数現れ、太陽系とサパド星系の間を探査して回ったのだ。

位置的に考えて、これは銀河系内腕からの船とみて間違いない。ヴォイドを超える方法をすでに知っている文明となれば、おそらく人類よりも強力な文明であろう。
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 2228年、銀河系第2象限

その予測は不幸にも的中した。ほどなくおこなわれたコンタクトの結果、内腕には3つの文明が存在することがわかった。外腕に探査船を送ってきたのはこのうち中央に位置する文明だった。
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 統合タラッシ盟約国
 『コアラ』というコードネームがつけられた
 総火力で負けている上、左隣のキノコ星人と同盟を組まれている 

その文明はタラッシといった。きわめて強力な艦隊を持ち、『狂信的個人主義』にして『精神主義』の民。

つまりソ連邦(集産主義、狂信的物質主義)とは真っ向から対立する不倶戴天の存在なのだ。同じ哺乳類ではあるが、価値観の違いで言えば蟻よりよっぽど敵となり得る種族である。

本当の戦線は4時方向に、すなわち銀河の内腕にあったのだ。
そうとわかればこの戦争は一刻も早く終わらせる必要がある。
「そのひとネジに、そのひと打ちに、国家の命運がかかっている!」
人民放送のラジオはそうがなり立てた。
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「人民と軍は一体だ。労働し、増産し、軍と共に勝利しよう!」

2229年1月、ソ連邦宇宙艦隊はようやく補充を終えた。総数34隻(総火力1K)となったソ連邦宇宙軍艦隊は、敵艦隊を求めて8時航路を遊弋する。

そしてついに3月、敵の首都惑星ポシ=ガンクラク近傍で敵艦隊を捕捉した。
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 ポシ=ガンクラクの戦闘
 対エネルギーシールドが使用されている

「私には牡蠣艦隊が首都惑星を襲撃し、それを蟻艦隊が防衛しているように見えた」とグプタ准将は後に述べている。
「ソ連邦宇宙軍艦隊は蟻艦隊を後方から奇襲する形で襲いかかった。恐れはなかった。『やるべきことはすべてやりつくしてここにいる』という思いが私の中に満ちていた」

そしてソ連邦艦隊はほぼ無傷でこの戦闘に勝利した。2228年にようやく実用化された対エネルギーシールドを全艦が装備しており、これが勝利に大きく寄与したものと思われる。
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「敵首都惑星を軌道爆撃せよ。ピオネールの悲劇の報復を行うのだ」
グプタ准将はそう艦隊に命じた。しかし軌道爆撃に先立って敵軌道港を攻撃しているうちに、敵からの降伏の申し出が届いた。

「同志人類諸君に首都惑星を貸与する。我々トラクポシアンはソ連邦に加盟する。我々をソ連邦公民として公平に扱ってくれることを望む」

本当にそのような通信があったかどうかは不明だが、少なくともマカロフ書記長の戦勝演説ではそのようになっていた。したがってそれが真実となった。

こうしてソ連邦の最初の戦争は終わった。6年におよぶ長い戦争だった。しかしソ連邦は英雄的努力によって進路に立ちふさがる敵を倒し、人類圏を8時方向に大きく広げたのである。
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 2230年 ソビエト連邦
 蟻の首都星系はポベダ(勝利)と改名された