リュモチナヤで
セルゲイ・P・コロリョフ記念第1軌道港の外郭部にそのリュモチナヤはあった。宇宙軍軍人の溜まり場として知られている店で、うまいニシンの酢漬けを出すというので有名だった。
 
アアラヴ・グプタ退役中将はストリチナヤを飲みながら待っていた。やはりニシンの酢漬けを頼んでいたようだ。
名称未設定
「あの戦争の話を聞きたい? いいだろう、もうそらでも言えるくらい私はその話をしてきたからな」
そう言うと退役中将はグラスをあおり、静かな口調で語り始めた。

「2230年代の話だ。当時、ソ連邦はきわめて強力な敵と対峙することになった。統合タラッシ盟約国というコアラどものことだ。やつらは総火力で我々を上回り、さらに隣のキノコ星人と同盟までしていた」
24
 ソ連邦をライバル指定するタラッシ

「宇宙軍はコアラとの兵力ギャップを気にしていた。たった20隻のコルベットで8つの世界を守りきれると思うかね? 連中はおそらくその倍は持っていたはずだ。私は党指導部にかけあって予算の拡充を要望した」

「しかし科学アカデミーの石頭どもは私にこう言ったんだ。
『植民と開発が最優先です。国を本当に強くするのはコルベットではなく、人口増と工業化です』
あきれてものも言えなかったが、知ってのとおりこの国は科学者が支配している。だから何もできなかった。あの事件が起きるまでは」
39
「蟻(トラクポシアン人)の持っていたファルギス星系という場所があった。アカデミーの阿呆どもがここに植民船を飛ばしたとき、すでにコアラが先に住んでいたんだ。

実に笑えるな。コアラどももやっぱり植民の大切さをよく知っていたんだよ」
43
「コアラどもは銀河の内腕から飛んできていた。ヴォイドを超える方法を知っていたんだ。我々はいまだにそれを知らない。せめて警備艦を常駐させるか、監視所を建てておけばこの事態は防げたんだろうが、私は思いつきもしなかった。これは宇宙軍司令である私の責任だ」
名称未設定2
「それからようやくコルベットの大量造艦に予算がついた。『タラッシとの建艦競争に突入!』というわけだ。さいわいソ連邦には資源はいくらでもある。すぐにでも兵力ギャップは埋まると思っていた」
20
「私が心血を注いだのはネレーイ級駆逐艦の設計だ。ネレーイ級は当時のソ連邦が建造できた最大の軍艦だ。私はコロリョフ設計局に足しげく通い、こういう艦が欲しいという要望を伝え続けた。

電子偵察情報によれば、タラッシの駆逐艦は重レーザーを搭載しているという。そこでこちらはできるだけたくさんのシールドを積んだ。だが基本的にはネレーイ級は対空火器を備えたミサイル投射任務艦といえる。

もとの構体は辺境警備用の重フリゲートだったんだが、モルニヤ級コルベットと同じ使い方(短距離ミサイルの飽和攻撃)ができるので、艦隊がもらうことになったんだ」
56
 演習で宇宙タコを撃破したソ連邦宇宙軍艦隊
14
 駆逐艦4、フリゲート1、コルベット35
 総火力1.7Kまで充足

「すでに2235年の時点でコルベットの数は拮抗していた。あとはどこまで駆逐艦をそろえられるかだ。しかしソ連邦にはネレーイ級駆逐艦を建造できる軌道港がたった2つしかなかった。我々は建艦競争に遅れを取りはじめた」
56
「2235年暮れ、マカロフ書記長が死んで新しい書記長が選ばれることになった」
16
「党内でもっとも支持を集めたのがサナア・ブハリだ。コロリョフ設計局などでキャリアを積んできた典型的テクノクラートだ。私はガレンカ・オストロフスカヤを推したが、かなわなかった。

ブハリはすでに高齢で、好戦的な拡張主義者だった。いま我々に必要なのは拡張主義者ではなく、ソビエト国家の防衛者だ。間の悪いときに間の悪い指導者に当たったものだと思ったな」
 
開戦
「2236年9月、その時がきた。ソ連邦は統合タラッシ盟約国の宣戦を受けたのだ。あのクソむかつくコアラども……。
40
連中は我々が植民した星系の独立を求めてきた。その数は5。これではソ連邦には太陽系含め3つの星系しか残らない。分割して美味しくいただこうというわけだ。ソ連邦軍人は決してこのような卑劣な連中に負けるわけにはいかない」
18
「敵主力はさっそくヴォイドを越え、太陽系辺縁4時方向にあらわれた。駆逐艦13、コルベット35の総火力2K艦隊だ」
31
 タラッシのコルベット戦隊
 ドローンによって撮影された

「タラッシ駆逐艦は情報の通り大出力レーザーを1つだけ積んでいた。コルベットも重ミサイルを単発積みだ。すべてか無か。コアラはなかなか喧嘩っ早い民族のようだ。

だが重シールド装備のネレーイ級があればレーザーに十分対処できる。そして高回避を誇るモルニヤ級/コメート級コルベットでミサイル飽和攻撃をしかければ勝てる。私はそう考えた」
10
 謎の敵艦船
 おそらくワームホール発生器ではないか?
 ワームホール航法ならヴォイドを越えられるのかもしれない

18
 地球に降下するタラッシ軍

「だが我々は決戦を許されなかった!
絶対に勝てたはずだ! しかしブハリ書記長は艦隊の喪失を恐れた。それで我々は12時方向のレヴォリューツィヤ星系へ退避した。人民を捨て、アカデミーの科学者たちを乗せて逃げ出したのだ。軍人にとってこれほどの恥があるか」
07
「地球が初めて異文明の軍隊に占領された2237年9月1日は、わが生涯で最悪の日となった。これについて私から語ることはない。語る資格がないのだ。ひとつだけ言わせてもらえば、私の妻と息子夫婦はこのとき命を落とした」
 
「『私は命令に従っただけだ』と言い訳をするのは簡単だ。だが私はこの艦隊温存命令が正しいことを理性の一部で知っていた」

「人民が苦しんでいるあいだ、我々は何をしていたのか。もちろん軍艦を建造していたのだ……。我々はオゴニョーク、ノーヴォエ=ヴレーミャ、コミュニズムなど後方の星系で駆逐艦やコルベットを次々に進水させ、レヴォリューツィヤに集結させた」
45
 友好国ビルノック
 hardモードでは友好勢力と同盟を結ぶのが難しい

「艦隊を拡張しすぎてエネルギー不足に陥ったとき、銀河内腕のビルノック人から救いの手が差し伸べられた。タコに似た頭を持つ彼らは温和な民族で、ソビエトに似た政治体制を持っている。

彼らはレアメタル301ユニットを受け取るという約束で、至急231ユニットのヘリウム3を送ってくれた。これにとどまらず、ビルノックと同盟を結ぶことができればよかったのだが、それはかなわなかった」

決戦を挑む
「ついにレヴォリューツィヤ星系に敵艦隊が現れたとき、我々は憎しみのあまりディスプレイに向かって雄叫びをあげた。『皆殺しにしてやる』『串刺しにしてやる』そんな言葉が旗艦クラースヌイ・オクチャーブリの艦橋にあふれた。

理知的な宇宙軍軍人たちがそのときは興奮していた。みな軌道爆撃や地上戦のとき必ず誰か家族を亡くしていたのだ」

「私は彼らを鎮めるため短い演説を行った。ソ連邦海軍と戦略ロケット軍の伝統に触れ、同志たちの連帯に触れ、人類の自由のために戦うよう求めた。

『讃えられてあれ! 自由な我々の祖国よ……』
58
 私の演説が終わるとすぐ、水兵たちがソ連邦国歌を口ずさみ始めた。国歌は他の艦にも伝わり、あらゆる通信が国歌で満ちた。のちにこれは宇宙軍の新たな伝統となった」
 
18
 2230年6月29日 レヴォリューツィヤIIIの戦い
 このときまでにネレーイ級を10艦建造できた

「我々は有利に戦いを進めた。
短距離ミサイルの飽和攻撃によるスウォームアタックは有効に働いたし、回避率は敵の13倍を記録した。コアラどものコルベットは氷のように溶けていき、我が方の勝利は確実だと思われた」
11
 ソ連邦宇宙軍艦隊の命中率と回避率の高さに注目

「だが、唐突に勝利は失われた。コアラどもはEFTLを発動し、レヴォリューツィヤ星系から緊急退避したのだ。連中のワームホール発生船を先に潰しておかなかったせいだ。私は悔しさのあまり咆哮した。わかってくれるか、この無念を」
25
 占領下の地球と敵の2艦隊

「敵艦隊の退避先、太陽系には新たに無傷の2K艦隊が出現した。敵はやはり総火力で上回っていて、我々が打ち破ったのは単に敵の半分にすぎなかったのだ。

そしてタラッシの造艦力はこちらを上回っている。我々は地球を失っているのでもはや駆逐艦を大量造艦できない。長引けば長引くほど不利ということだ」
03
「さらにエネルギーの問題があった。補給力を大幅に超える艦船保有のせいで、我々はもうあと2ヶ月しか戦うことができなくなっていたのだ」

「私は総合的に見て勝てないと判断した。ヴィドでブハリ書記長にその旨を伝えると、彼女は鬼のような顔でこちらを見つめたあと『わかった』とだけ言った」
34
 相手の5要求のうち4つを飲んで停戦
00
 傀儡資本主義国家
 同じ人類だが相性最悪

「我々はきつい敗北を喫した。
『万国人類同盟』というタラッシの傀儡国家(星系4)が誕生し、我々に対して牙をむくことになった。ソ連邦は初期の植民の成果をすべて失い、領域は3つに分断された」
15
 資本主義3国家に完全に包囲された
 万国人類同盟がGrand Pact同盟入りすると本当にまずいことになる
16
「そして太陽系内にはいつでもジャンプできるようタラッシのワームホールが維持されている。なんという屈辱だ。これを壊してから停戦すべきだったのだ。これも私の判断ミスだった」

「占領軍は地球から去った。帰還した宇宙軍艦隊を同胞の怨嗟の声が包んだ。我々はただ黙って耐えた。しかし『地球を奪還してから休戦すべきだったのでは』という声が党内でも日増しに強くなっていった」
12
「敗北責任を問われたのは私ではなく、サナア・ブハリ書記長だった。彼女はまもなく失脚し、ガレンカ・オストロフスカヤが書記長となった。

私は粛々と軍務についた。政争に関わる余裕はなかった。
いまや人類圏そのものが危機に瀕していた」


次回、2242年:打てる手はすべて打つ