<前回までのあらすじ>
ルーシはまたまた遊牧マジャルに征服され、ビャルトラ家はスグロフ=カガン国とかいう聞きなれない国の臣下となった。さらには本家の継承が途絶えてしまい、傍系のビャルトラ家から一人の男が自信満々乗り込んできたが……。

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 イルヴァの子ソルド、リフランド公
 ネガティヴtraitの博覧会だ

ビャルトラ家もそれなりに歴史を重ねてきた。さまざまな男たちがビャルトラ家の当主を務めてきたが、人々が満場一致で最悪とみなすのがこのソルドである。

愚かなソルドは直接の主君であるルーシ大公に反旗を翻し、あえなく捕縛されて、死ぬまでスマレスキャの城塞の地下牢で過ごすことになった。
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 ルーシを統べるイヴァン大公

「これまでのビャルトラ家の忠勤に免じて命だけは助けよう。しかし罰として、また記憶としてとどめおくためビャルトラの領地をひとつ召し上げる」
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 血であがなった領地カレヴァンがあっさり失われた

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また、ソルドの留守役を務めたのがスニという愚かな男で、当主の捕縛中に何度もビャルトラの金貨に手をつけた。何を思ってソルドはこの男を摂政に任じたのか……。
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これでは下々の様子にも想像がつこうというものだ。大規模な農民反乱まで起きてしまい、領国は乱れに乱れた。

努力はした
だがソルドにも言い分はあったのだ。
ソルドがリフランドに乗り込んできたとき、人々は目を疑った。なんたる下愚であろうか!
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 目を疑う無能ぶり

しかしソルドは自覚していた。自分が当主に選ばれたのはただ血筋のゆえであると。
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アルニ系に男児が絶えたので、盲目のスヴェルケル系に継承が移った。誰もソルドを迎えたくて迎えたわけではなかったのだ。

そんな空気のなかでソルドは人知れず努力していた。
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僧について地道に領国の治め方を学んだり……
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叛徒と戦って経験を積んだりしていたのだ。領国の人々はソルドを愚かな男と思い続けていたが、彼は少しずつ学び始めていた。
名称未設定
 ここまでがんばった
 
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またソルド自身にも男児がなかったので、甥のグズフリズを後継者と定めて可愛がった。グズフリズは優れた青年だった。ソルドの人選のすべてが誤っていたわけではなかったのだ。
 
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 1109年のキリスト教世界

当時キリスト教世界は大きく動き始めていた。
中欧に居座ったカールパート・スルタン国を屠ったのも束の間、東方からはキルギス、カラ=ホジャがドン河畔に迫ってきていた。そして西方ではモロッコの王朝がフランク王国領アクィタニアを侵し、聖戦が叫ばれ始めていた。
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 Deus Vult.

リフランドの属するスグロフ=カガン国は東方の脅威に対してきわめて脆弱だ。ソルドはカガンについていては先がないと感じていた。

「もう大平原とは手を切ろう。バルト海沿岸の中規模公国として生きていくほうがずっといい。そして諸王とともに十字軍に参加して、新たな領地を切り取るのだ」

ソルドはグズフリズにそういった自分の考えをもらすこともあったようだ。
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 執着の《大平原》

ビャルトラ家代々の《大平原政策》はつねに喪失領土タンタルキャ、ドニエプル川への執着と大きなつながりがあった。ソルドはビャルトラ家の当主としては初めてこの執着を捨てようとしたのだ。

しかしその方法が悪かった。冒頭に述べたようにソルドは大公イヴァンに反逆し、時宜を得られずに敗北。牢に放り込まれた上、領地を召し上げられた。これくらいの処分で済んでまだましだったというものだ。
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ソルドが捕縛されている間に後継者のグズフリズは死んでしまい、公国の評議会はグズフリズ長子のダグをあらたな後継者として指名した。
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しかしダグは有能だが野心的な青年だった。彼はソルドの暗殺まで企てていた!

評議会とダグ、そして大公イヴァンのあいだにいかなる取り決めがあったのかはわからない。またそんな取り決めなど一切なかったのかもしれない。
02
いずれにせよ……。
1130年の秋、ソルドは大公イヴァンの牢獄で64歳の死を迎えた。そうしてダグが新たなビャルトラ家の当主となったのである。