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リューン王ハルガスンがモルドールの崩壊に衝撃を受けていたころ、北方でも大きな動きがあった。リューン封臣のガトド族長アルハイが闇の森エルフを攻略し、『闇の森の王』を名乗ったのだ。
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これによってガトドはリューン王国から離脱、東夷諸王国にあらたな王国がひとつ加わることになった。
名称未設定
ハルガスンは悩んだ。
アルハイの離脱を許さず、ガトド本領をこの機会に回収すべきだろうか?
しかしアルハイは息子の義父でもあり、関係は決して悪くない。
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それに北方では裂け谷のエルロンドの息子たちがエレギオン王国の再興を宣言するなど、状況はきわめて流動的だ。ここはアルハイに北の抑えになってもらうほうが賢明なのでは?
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 第三紀の終わり
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 エルロンド自身は裂け谷の王位を明け渡し西へと船出した

ハルガスンもいまはドルイニオン王国を攻めていて、手が離せない。そこで彼は腹を決めた。東国の民同士、ガトドのアルハイと手を結ぶことにしたのである。
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 闇の森の王アルハイと婚姻同盟を結ぶ
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11373年6月、リューン軍はドルイニオンの南半を制圧し、これを併合した。
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ハルガスンはその宮廷を征服地のブルフ・エルマナリキスに移した。葡萄酒をよく産し、谷間の国やドワーフ王国とのあいだで交易がさかんな都市だ。リューン湖に面した美しい町並み、その千の塔は朝ごとに瑪瑙のように輝く……。

「ここを拠点に東国に覇を唱えよう!」
ハルガスンの意気も上がる。
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いいことは続くものだ。
「リューンの姫を王子の嫁にいただきたい」
ケルドゥイン上流域の東国の民、ジャンゴヴァルのイオーデスマゴス王から便りがきた。

ハルガスンはこれを認め、さらにアルハイと結んだような婚姻同盟を結んだ。こうしてリューン湖から闇の森にいたるまでの東国の民4国が、がっちりと手を結びあったのである。
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 東夷4国同盟
 北方のアルハイはさっそく闇の森を失ってしまったようだ
 ロスロリエン(黄)の伸長に注目 
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 闇の森のエルフ新王にはレゴラスが即位、反攻を期す

領国のこと
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ハルガスンには5人の男児がいたが、とくに長男のウイグルタイにはよく気を配っていた。彼は自分でウイグルタイを教え、訓練し、王となるべく育てた。

しかし王とは忙しいものだ。王としての務めを果たしながら子供の教育までやったハルガスンは知らず知らずのうちに心を疲れさせてしまっていた。
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そんなハルガスンの気晴らしになったのが宴だ。
アガシャ=ダグの族長ガエラグラルが催した宴にハルガスンは通いつめ、大酒を飲み、くだらぬ話をしては笑いあった。

不思議なもので、ハルガスンがリューン湖を渡ってブルフ=エルマナリキスに帰るころにはもう心の疲れなど消し飛んでいたのだった。
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 享楽家ガエラグラル
 生涯に多くの宴をひらき、ハルガスンはずいぶん助けられた

「心配ごとがあればなんでも言ってくれ。わたしは王ではないからなにもできないが、少なくとも相談の相手にはなれる」

ガエラグラルは必ず宴にハルガスンを呼んだ。二人はこれらの宴を通じて親しくなり、狩をともにする仲になったという。のちにハルガスンはガエラグラルを宰相に任命している。
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さて、ハルガスンのそそいだ愛情が実るときがきた。
11377年、長子ウイグルタイが成人したのだ。きわめて頭のよい青年として育ち、臣下はみなこの若き武人にほれぼれとした。
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 リューン王子ウイグルタイ
 はめを外しすぎるところはあるものの
 強健かつ明晰な武人に育った
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ウイグルタイの妃には友邦ジャンゴヴァルのマリナ姫を迎えることにした。2王国の紐帯はますます強いものとなるだろう。

ところがである。
ウイグルタイに醜聞のうわさが立った。ガエラグラルの宴で侍女を手篭めにし、子供を産ませたというのである。婚礼を控えたこの大事な時期にとんでもない話だ。

ところがウイグルタイを呼んで問いただしてみれば、これが本当のことだったのだから、ハルガスンは激怒した。
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「子は責任をもって貴様が引き取れ!」

関係する者に金品を配り、口をつぐませることでなんとか醜聞は避けられた。このことがあってからハルガスンはガエラグラルに頭が上がらないようになった。
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その年、ドルイニオンに対する2度目の戦争が終わり、リューンは北部ドルイニオンを併合。リューン王ハルガスンの勢威は東国中に知れ渡るところとなった。

あらたに征服した北ドルイニオンにはメンゲイというリューン人を据え、ここに商人による共和国を形成させた。
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 北ドルイニオン共和国は年額28.28もの税を王に納めた
 手順を間違えたため、海洋共和国を形成することには失敗
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「リューンの富の基礎は交易にあります」

メンゲイは王の評議会に加わり、その財政についてつど適切な助言を行ったという。

さてそうこうするうちに、アガシャ=ダグのガエラグラルからまた便りがきた。
『このたびの戦勝を祝い、また宴を催したいと思う。来てくれるか』
 
親友よ、もちろんだ。
喜んで供の者を連れアガシャ=ダグへ出かけていったハルガスンだったが……。

ハルガスンは泥酔いしたうえにくだらぬことでガエラグラルといさかいになり、仲違いをしてしまった。
「恥をかかされた! ガエラグラル許すまじ!」
しかし酒がぬけてみれば、悪いのは自分であることに気づく。
「王たる者がなさけない姿をさらしてしまった。ガエラグラルに謝らなくては」
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しかしアガシャ=ダグからの返事はなかった。
あとになって大切な友人を失ったことに気づいたハルガスンだったが、もう遅い。ガエラグラルは終生の敵となってしまっていた。

「友人は大切にせよ」
ハルガスンは息子ウイグルタイにしみじみ言い聞かせたという。