掃討
05
『異次元艦隊殲滅!』
『ニプローシェヌイの次元門を封鎖!』
『ソ連邦宇宙軍、赫赫たる大戦果!』

そのニュースが太陽系に届くと、熱狂が巻き起った。
プラウダも、イズヴェスチヤも、クラースナヤ・ズヴェズダーも特報を出し、赤衛艦隊の第9回遠征とアスタルテ次元門の破壊について詳細に報じた。

外務省には祝電が殺到し、共和ファフォッサンなど友好諸国家の使節たちはウォッカで祝杯を挙げた。ソ連邦はいまや銀河の守護者となったのだ。

しかしまだ戦いは終わっていなかった。
サナア・ジュハニ宇宙軍提督率いる赤衛艦隊には新たな任務が与えられた。
07
 ヴェヘメント
 第3の異次元人

第1象限に伸びたソ連邦の腕の上、ウヴァ=サヴァニ聖鳥帝国のすぐ裏にその次元門はあった。ソ連邦科学アカデミーはこの第3の異次元人をヴェヘメントと名付けた。

ヴェヘメントの勢力圏はまだ小さいが、今のうちに潰す必要がある。ニプローシェヌイの悪夢を繰り返すわけにはいかないからだ。
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2492年12月9日、赤衛艦隊はミクロルの渦から転進、第4象限から第1象限への移動を開始した。世にいう『2492年の長征』である。
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2496年9月23日、赤衛艦隊は第1象限サシャリム星系に到達。ここでヴェヘメントと接敵する。いよいよ最後の戦いの火蓋が切られようとしているのだ。
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 ヴェヘメント艦隊
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「砲門をひらけ!」

サアナ・ジュハニ提督の号令一下、259設計戦列艦戦隊が長距離砲戦を開始した。アウトレンジからの強力な砲撃。完全にこちらが優勢だ。
01
 ヴェヘメント艦のシールドはニプローシェヌイと大差ないようだ

緒戦に勝利した赤衛艦隊はコン=ヴィアブ星系へと進出した。ここにはヴェヘメントの次元門がある。艦隊はこれを直撃する。
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 第3の次元門

301設計航空戦列艦から発進した宇宙攻撃機は、新開発された事象破壊爆雷を搭載している。ニプローシェヌイとの戦いからリバースエンジニアリングで得られた技術を応用したものだ。

タキオンランスの砲撃に支援されながら、攻撃機隊が次元門の至近で事象破壊爆雷を投下する。しばらくして複数の爆雷が同時に起爆すると、空間が歪み、震え、爆縮し、それからすべてが消えた。
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 勝利

2497年7月8日、すべての戦闘が終息し、人類は異次元人との戦いに勝利を収めた。123年間におよぶ大戦争がここに終結したのである。

サナア・ジュハニはのちにこう書いている。
「私の生まれる前から続いていた戦争はこうして終わった。曽祖父が戦い、祖父が戦い、父が戦い、そして私が終わらせた。

この戦争で失われたソ連邦宇宙軍艦船の数は500を上回ると言われている。多くの勇敢な軍人たちの命が失われた。彼らは祖国への義務を果たしたのだ。宇宙軍軍人たちの尊い犠牲に対し、ここに黙祷を捧げる。

私は今日をもってソ連邦宇宙軍を退役する。オゴニョークIIIにある小さな農地とダーチャを支給された。地球に土地をもらえるという話もあったが断った。余生は故郷で過ごすのが一番だ」

勝利の配当
名称未設定
「うーん。どうしたものか……」
星間移民省のウニパク・イナクシニルキスはひどく頭を悩ませていた。彼女は寒冷惑星への移民業務畑で育ってきた技官だが、このたびの戦争の戦後処理として、ニプローシェヌイ勢力跡地への入植調整を任されることになっていたのだ。だが、これがうまくいかない。
13
急速に拡張したニプローシェヌイの勢力は銀河の1/3を占めるにいたった。その跡地は広大だ。数え切れないほどの植民可能惑星がある。これらを独占できればソ連邦はさらに飛躍できるに違いない!
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だが、派遣された植民船はいずれも植民を行わずに帰還した。
ニプローシェヌイの残した敵味方識別システムに感知され、攻撃を受けたのだ。戦争が終わっても、まだその領土は敵性であることを示していた。

取り得る手段は2つ。
1. 遺棄されたニプローシェヌイの要塞網を破壊し、その帝国領域を縮小させる
2. ニプローシェヌイ領域に隣接した星系を獲得し、ソ連邦の帝国領域を膨張させる核とする
28
 破壊されるニプローシェヌイの施設

こうして世紀の大事業が始まった。
赤衛艦隊は4つの戦隊に分割され、広大な第3象限・第4象限に遺棄された異次元人の要塞を破壊して回った。
05
ソ連邦科学アカデミーでは科学者が大増員され、領域膨張の研究が進められた。そして多くの探査船がニプローシェヌイ領域へ向けて飛び立った。イナクシニルキス自身も数度の探査をおこなった。
02
 なるべく多くの植民可能惑星を経由するように航路が設定された
21
「無人、この惑星はまったくの無人だ。どのような種族が暮らしていたかすら定かではない。なんとむごたらしい……」

イナクシニルキスは探査の記録にこのように書き残している。ニプローシェヌイの占領した惑星からはすべての知的生命体が姿を消し、そこはエネルギーと食料、鉱物を自動生産するだけの静かな廃墟となっていた。

「もしニプローシェヌイの次元門がソビエト連邦の内側に出現していたら、いったいどうなっていただろう。何億という市民が、人々が、我々の子供達が……考えるだに恐ろしい」
04
2510年にはイナクシニルキスの同僚ダイ・ウーヤンが書記長に選出され、再植民計画は加速した。
33
 ソ連邦の帝国領域を膨張させるための核が必要
 そこでニプローシェヌイ領域に隣接した2星系を武力占領した

翌年、赤衛艦隊は銀河中心に近いワナムビス、アナコヌス両星系を武力占領し、ここを拠点として植民が開始された。
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2515年、ラディオム星系、ストラタル星系への植民が成功。
2523年、ウルス星系、シプリム星系、オドラモン星系、ウィスリリ星系への植民が成功。
12
35
 大陸型惑星であるシプリムIIへの植民は特に成功した

だが、このソ連邦の躍進に不快感を持つ者もいた。
共和ファフォッサンの鳥人たちと、忠誠メンジェティ部族のキノコたちである。
04
「異次元人の旧領域はわが国の固有の領土に隣接している。よってわが国が管理すべき星域と考える」
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「獣どもは下がっておれ。そこはわがメンジェティの胞子の育つ場所だ」
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 2533年
 絶え間ない掃討作業によってニプローシェヌイ領域は縮小・分断
 銀河外縁への道がひらけた

この2つの国家は独自にニプローシェヌイ領域への進出をはかり、ソ連邦宇宙軍艦隊との地域的な衝突を繰り返した。しかし全面戦争に発展するかと思われたこの対立は、双方の努力によって沈静化している。
07
2536年、ソ連邦はニプローシェヌイ領域を外縁方向に打通。こうして再植民計画の第一段階は終わりを告げた。

イナクシニルキスはこう書いている。
「私の生涯の仕事は終わった。異次元人の旧領域はソ連邦、ファフォッサン、メンジェティに三分された。ソ連邦は銀河の1/4を領有し、銀河5大国のうちでも最大最強の国家となった。
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 ソ連邦を支える豊かな財政
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旧領域寒冷惑星への植民はわが同胞のトラクポシアン人が担った。トラクポシアンはいまやソ連邦人民の1/4を占めている。
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銀河全体で見ても、わが民族は人類、ロボットに次ぐ第3位の人口372億を有するまでになった。私はソ連邦のためにも、わが民族のためにもよい仕事ができたと思う。
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私はこれから太陽系に向かう。そこでソ連邦1級労働名誉勲章を授与されることになっているのだ。

すべての始まった地、地球。そこは私の故郷ではないが、私が誇りを持って奉仕してきた国家の徽章にはこの惑星の姿が刻み込まれている。
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ソビエト連邦よ、永遠にあれ。
人民の意思によって建設された、団結した強力なソビエト同盟万歳!

私はわが国の未来を幻視する。
われわれの子供たちは宇宙を邁進し、銀河をわがものとするだろう。そして祖国の赤旗に、つねに熱い忠誠心を持つだろう!

勝利はわれらがもの。
そのように私は信じているのだ」


「プロパガンダポスター。2536年。星がきらめく宇宙に向かって大きな白い三角錐が伸び、その先端には小さな宇宙船が描かれている。ヘルメットをかぶった赤い人が1人。彼はソ連邦の国旗を誇らしげにかかげ、白い帯の中を行進してゆく」

こうしてこの物語は終わりを告げる。
しかしソビエト連邦はけっして終わらず、星々への道を歩み続ける。

PER ASPERA AD ASTRA 完

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