カス=リューンの平原を吹きわたる風とともに、隊商たちが帰ってきた。彼らはリューンの赤い長旗をなびかせ、角笛を鳴らして帰還を知らせた。
隊商たちは荒涼たるエレド・リスイを越えてモルドールまで行ったのだ。暗闇をおそれないリューンの馬200頭を冥王に献上し、引き換えにおびただしい金品と奴隷を連れ帰った。
智謀のボルハダル
リューン王、トクタマノグル家
リューン王ボルハダルは隊商の帰還を心待ちにしていた。
諸侯に奴隷を分配する約束があったし、リューン湖のほとりにある水田は大勢の奴隷を必要とした。それにここ東方の地ではゴンドール女は高い値で売れる。
ボルハダルが隊商を心待ちにしていた理由はもうひとつあった。隊商を率いる息子ハルガスンの婚礼が控えていたからだ。
ハルガスンの花嫁には隣国ガトドのホジン・ヴェ=ハミュールを迎える。ヴェ=ハミュール家はリューン王の臣下ではあるが、王と同じくらいの領地と戦士を持っていた。
リューン王国(白枠)
脆弱なカス=リューンの王権
王軍1300に対し諸侯それぞれが1000程度の兵を持つ ガトド族長アルハイ・ヴェ=ハミュール
ロバのような粘り強さで知られた
ボルハダルはヴェ=ハミュール家と同盟することによってほかの諸侯を抑えようとし、ヴェ=ハミュール家は王と同盟することによって諸侯のうちでも抜きん出ようとする。寝床と血をもって争われるささやかな競争。辺境ではよくあることだ。
王子ハルガスン
怒りっぽいものの人好きのする性格
さて、カス=リューンの野営地に帰ってきたハルガスンは少し興奮していた。
11361年の中つ国
赤線は仮想敵国
「父上、いくさが近いとみな言っております。ゴルゴロスの谷にはオークがひしめき、苦きヌルネンのほとりにはたくさんの米俵が積み上げられていました。われら東国の民にもそのうち沙汰があるものと思われます」
「敵はゴンドールか、それとも北国人か」
「わかりません。サウロン様が何を考えているのか」
「それは誰にもわかるまい。あの御方のことはな」
冥王、赤き目のサウロン
モルドールの支配者
「われら東国の民は団結してこの難局をのりきるぞ。いいか、絶対に生き残らなければならん。サウロン様のために戦い、故郷のために戦うのだ。ゴンドール人が跋扈する世の中にしてはならん」
「わかっています」
「ほかには」
「手配状が出ています。小さい人族のフロドという人物です。この人物に限らず、小さい人族を見つけたらバラド=ドゥア送りにせよとのことです」
「小さい人族か。ほんとうにいたのか」
「わたしも言い伝えでしかないと思っておりました」
「なんにせよ、サウロン様の指示だ。よく気をつけて見ているように」
「わかりました」
その年の秋が過ぎ、ハルガスンの婚礼が済んだころ、モルドールから黒馬の使者が来た。しゃがれた声で話す、黒ずくめの男だった。男は戦士たちの天幕の前で馬を止めると、大音声で呼ばわった。
『冥王サウロンは、諸軍をオスギリアスに招集する!
大河アンドゥインをわたり、敵の都ミナス=ティリスを突けとのおおせだ。リューンはその用意ができているか?」
カス=リューンの戦士たちは答えた。
「できている!できている!できている!」
しかし出撃を目の前にして、大きな悲しみがリューンを襲った。ボルハダルが水浴で体を冷やし、そのまま高熱を出して死んでしまったのだ。
「不憫な父上、戦士として死にたかったであろうに……」
ハルガスンは新王として父を荼毘に付し、手篤く葬った。
そして喪が明けると、悲しみに沈むリューン軍を率いて西へと出撃した。
ついに戦いの火蓋が切られた
リューンからゴンドール国境までは遠い。リューン軍が集結地のウドゥンの黒門についたころには、すでにモルドール軍主力はイシリエン、アノリエン一帯に展開してしまっていた。
モルドール軍来襲の知らせを受けて、ゴンドールの執政デネソールはみずから火のなかに入り自殺したという。
新執政ファラミア
いま敵軍を指揮しているのはデネソールの次男ファラミアだ。東国にも名の知れた名将で、迅速にゴンドール軍の集結を済ませ、主力29000の士気はいやがうえにも高いという。
「けっして正面からあたってはならないな……」
ハルガスンはそう思った。
「敵主力を避け、アノリエンへ深く進出して敵の後方をおびやかすのがいいだろう」
そのためにまずはアンドゥインを渡らなくてはいけない。そこでカイア・アンドロスまで南下して、ここで渡河をすることにした。
カイア・アンドロスについてみると、モルドール軍が北上してきたところだった。ミナスティリス前面での会戦に負け、敗走してきたのだという。
そこには冥王に忠誠を誓うさまざまな地方からやってきた軍がいた。オークがいたし、北のルダウアからやってきたハレスの民がいた。南のハラドワイスからやってきた象兵もいた。みな憔悴していて、士気は低かった。
ハルガスンはここで同じ東国の民であるフンドラルのサソーン王に出会った。サソーン王は言った。
「モルドールは敗北しつつある。次の会戦でとどめを刺されるに違いない」
「サウロン様の軍勢がそんなに脆いわけがない」
「同じように思っていた、わしもな。しかしゴンドールは何倍も強かった。いまも追撃を受けている。はやくこの宿営地を出ないと貴公の身も危ないぞ」
サソーン王の言葉は本当だった。
翌朝、まだ日がのぼる前、モルドール軍の宿営地は奇襲を受けた。ゴンドール軍の鬨の声が響き渡る中、ハルガスンはいそいで甲冑をつけ、兵たちをまとめた。
11368年6月26日
アティルドゥインの会戦
なんとか体制を立て直したモルドール軍とゴンドール軍は大河の岸辺でぶつかりあった。そのときハルガスンは左翼を固めていた。しかし最初の斉射で射ち負け、兵の足並みは乱れ始めた。重歩兵同士の衝突が始まり、モルドール軍はしだいに競り負けていった。そして朝日の射すころ、ついに全軍が潰走した。
このときの潰走のありさまや、どうやってリューンに逃げ戻ったかについては『アティルドゥインの歌』となってリューンでいまだに歌い継がれている。リューンの人々はこれを聞いて涙を流し、米の酒を飲んで先祖と悲しみをともにするのである。
ケルドゥイン戦役
さて、『大いなる戦い』と同時進行する形で、北方ではもうひとつの戦役がおこなわれていた。リューン湖に流れこむケルドゥイン流域を戦域としていたので『ケルドゥイン戦役』と呼ばれている。
この戦役の主役となったのはガトド族長アルハイで、東国のはしばしにまで使者を飛ばし、17000もの兵力を集めて北へと侵攻したのである。
ガトド族長アルハイは16500のイベントスポーン兵を得た
CK2:MEPではこの兵は恒久的だが、
今回のプレイでは disband_on_peace = yes として戦後解散させた
アルハイが標的としたのは北国人のブランド王が治める谷間の国だ。ここはリューン湖沿岸とも交易のある地方で、エスガロスの町には東国の民も多く住んでいる。
アルハイはその大兵力を使ってなんなく谷間の国を征服した。そしてケルドゥイン流域の上流とリューン湖畔をともに治める大領の主人となったのである。
しかしこのアルハイの動きはリューン王ハルガスンの了解を得たものではなかった。ハルガスンは激怒した。自分がわずか1000騎を率いて冥王の陣に馳せ参じていたころ、アルハイは自分のためだけに17000の軍隊を動かしていたのだ。
アルハイの16500と同時にリューン王には
5500のイベントスポーン兵が与えられた
ハルガスンはアルハイの軍勢を解散させ、そのうち5500を王の親衛として置いておいた。この5500人の親衛軍はその後もリューン軍の中核として活躍することになる。
ここでハルガスンは大きな問題にぶち当たることになった。この兵力を使ってふたたび西へ出征するか? それともアルハイがそうしたように、東での地歩を固めるのに使うか?
しかしハルガスンに選択の余地はなかった。
11371年2月、モルドールとゴンドールが停戦に合意したのだ。
4年にわたる戦争ののち、冥王サウロンの権威は地に落ちた。そうして朝貢国の王たちは不信の目をバラド=ドゥアに注ぐようになった。
そのころゴンドールではエレスサール王が即位
きわめて強力な王だ……
冥王よとこしえに
北国人のドルイニオン王ヴィスワルズ
高い外交能力で東国で生き残ってきた
となれば標的は北の隣国ドルイニオンだ。
豊かな国で、ここで産する葡萄酒は谷間の国を通って闇の森のエルフの殿のもとへ運ばれているという。
ハルガスンは軍勢を招集し、ドルイニオンへ侵攻した。
リューン湖に面する要港ブルフ・エルマナリキスを包囲し、いくさは順調に進んでいった。
その知らせが戦陣にあるハルガスンのもとへきたのは、8月も半ばをすぎたころだった。
『冥王死す』
あの小さい人族のフロドという男が、どうやってかはしらないが、サウロンの力の源を砕いたというのだ。サウロンは消滅し、その力は中つ国から消え去った。
モルドールは崩壊した。
朝貢国をすべて失い、その領国にはオーク、黒きヌーメノール人、ヌルネン人などが割拠した。アティルドゥインの会戦のときからこうなるときは覚悟していた。モルドールはあのときすでに実質的に滅んでいたのだ。
バラド=ドゥアの管理は黒きヌーメノール人の
『サウロンの口』が引き継いだ
ハルガスンは目の前が真っ暗になった。
サウロンは誰よりも強力だった。そのサウロンが消滅するはずがない。きっとどこかに生き残っている。彼は不滅なのだ!
しかしどこをどう探してみても、サウロンが生きているという情報は得られなかった。ああ、かのメルコオルから連綿とつづく闇の力はついに途絶えてしまったのだ。
サウロンに保護されてきた東国の民は、これからどうやって生きてゆけばいいのか?
ゴンドール人の暴虐に対抗することができるのか?
あのような強力な王が立ったゴンドールに?
答えはひとつしかなかった。
力を蓄え、時期をうかがい、攻勢に出て、そうしてリューンを押しも押されぬ大国にするのだ。東国にその名をとどろかせ、ゆくゆくはゴンドールと渡り合える国を作っていく。ハルガスンのなすべきことは多かった。